―3―
ネルボは自分の迂闊さを呪った。
あの時、あの魔力の「匂い」が漂った瞬間に、作業中止を強く進言していれば良かった。
「「「ハルマゲドン!」」」
ウィザード三人が練り合わせた魔力が純白の閃光となり、一瞬視界を塗り潰す。ォオ、ォォォオオオォォォォォォォォ……――迫りくる亡霊たちは哀切な呻き声を残して浄化されていく。
――だが、
「ぬおお! こっちからも来おったぞ!」
「後ろにも回り込まれたでアリマス!」
「要はアレアレアレ……絶体絶命の大ピ〜ンチ、のつもりだ!」
「『つもり』じゃなくて本当にそうなんですよドンファンさん!」
マテライトとタイチョーの悲鳴、ドンファンの解りやすい状況説明、ゾラの息子の突っ込み――様々な喚声が場を飛び交う中、彼女は思わず舌打ちしたくなった。ああまったく、これだから殿方というのは! いざとなった時には何の役にも立ちはしない!
ネルボは険しく睨みつける。自分たちを囲む青白くも暗く沈んだ気配をまとわりつかせる亡霊たちは、その包囲網を一歩、更に一歩と狭めつつある。実体が中途半端にしかないから触れられるのに斬っても突いても通じず、『ハルマゲドン』で浄化しても、駄目だ、焼け石に水だ。
「やっぱり、ちゃんと聖の魔力を持つ戦竜の力を借りないと……!」
アナスタシアが口惜しげに呻いた。
ウィザードの黒魔法もプリーストの白魔法も、戦竜をパワーソースにする事で驚くほど速く、強力に発動できる。しかしそれも力を借りる戦竜にその属性の魔力がちゃんと備わっているか否かに掛かってくる。
ウィザード隊が今パワーソースにしているツインヘッドに備わった魔力は、炎と水、雷、その三種が合わさる地。
聖の魔力はない。
だから彼女たちが放つ『ハルマゲドン』には、亡霊たちの包囲網を全て吹き飛ばすだけの力はない。『フレイムゲイズ』や『サンダーゲイル』を放つ時のような速射性もない。
「くっ――!」
呻き、再び『ハルマゲドン』の詠唱を始めるネルボ。竜の魔力を借りなければ、たくさんの言葉を尽くして世界に呼び掛けなければいけない。アナスタシアとエカテリーナも再詠唱に入ったが、中々完成しないそのもどかしさ。その間にも亡霊たちは迫りきて、そして、
「――うわあああっ!?」
悲鳴が上がる。若い声だ。ランサー隊のレーヴェだ。悲鳴は連なる。フルンゼのうろたえる声。
急がなければ。急がなければ。急がなければ――ああそれなのに詠唱は完成しない!
末尾の言葉は尚遠く、紡がなければいけない言葉は膨大だ。駄目だ、これでは。これでは、誰かが犠牲に――
「――ふっ……フレイムダストぉっ!」
涙混じりのやけっぱちの声が、響き渡った。
ドォンッ、と上がる炎。レーヴェかフルンゼの放った『フレイムダスト』だ。ネルボは言葉を唱える途中だというのにまたもや舌打ちをしたくなった。ああまったく、これだから男は! パニックを起こして無駄な事をして!
睨むようにそちらに視線を送った彼女は、そこで、驚きに目を見開き、詠唱を中断させてしまった。練り上げていた魔力が霧散し、他の二人が顔色を変える。
燃え盛る炎。
愕然とするレーヴェとフルンゼ。
そして――
二人から逃げるように後退する亡霊たち。
いや、違う!
亡霊たちが逃れようとしているのは、あの小童ランサーたちではない!
炎だ!
その瞬間、ネルボは理解した。
ラディアの残した培養槽。破壊したそれから流出した魔法。現われた亡霊たち。彼らは火を恐れた――
「――誰か、援護を!」
彼女は叫ぶ。その力強い声に誰もがハッと視線を寄越す。
「炎系の技を! 敵を近付けないでください!」
「承知したでアリマス!」
逸早く応じたのはタイチョーだった。彼は勇んで一歩飛び出ると、『フレイムブース』で亡霊たちを蹴散らす。その光景に勇気づけられるランサー隊。彼らは力を合わせて『フレイムダスト』を放つ。アナスタシアの指示にツインヘッドが炎を吐き、呼応してエカテリーナが『フレイムゲイズ』を発動させた。更に数歩退く包囲網。ネルボ自身も火炎の魔法を使う。
道が開く。
走る。
一直線に、迎賓館へ。
§
その頃、ビュウもまた走っていた。
正確には逃げていた。
追い掛けてくるのは、言うまでもない血の気のない人、人、人、人の群れ。特定の獲物を定めずにフラフラ街を彷徨っていたそいつらが、ビュウを見つけて一斉に追い掛けてくる。滑るように宙を飛んで。
「っだあああああああっ! 追いかけてくんなしつこい!」
そいつらは誰一人として答えようとしない。空っぽの無表情で、息も切らしていない。まるで蝋人形のような不気味さで以ってただひたすらにビュウを追う。
せめてサラマンダーがいれば。しかしサラマンダーは街の外に置いてきた。余程の事がない限り戦竜を街に入れるわけにはいかない。
(じゃあこれは「余程の事」じゃねぇってか!? 冗談じゃねぇ!)
走りながらビュウは細い笛を取り出した。人間には聞こえないけれどドラゴンには聞こえる、そんな波長の音を出すこれを吹けば、例え鎖に繋がれていてもサラマンダーは駆けつけてくれる。その笛を加え、思い切り息を吹き掛けようとして、
ヒヤリッ。
氷のような冷たさが、衝撃と共にビュウの全身を襲う。
走っていた勢いのままたたらを踏む。危うく転びそうになりながら何とか体勢を保つと、彼は怒鳴り散らしたくなるのを堪えて後ろを振り返った。
ちょうど腰から肩に掛けて。
三人、取りついていた。
そいつらはビュウの視線に気付くと、ニヤッと笑みを浮かべる。嘲っているのか哀れんでいるのか、何とも判らない嫌な笑いだ。
『逃がさない』
『逃がさない』
『逃がさない』
「うるさい離せぇっ!」
後ろ回し蹴りの要領で背後に足を振る。そいつらの喉や胴に蹴りが入る、それはちゃんと見て確認しているのに、そしてそいつらのちゃんと衝撃を受けて離れていったのに、だのに足に伝わってくる手応えは皆無だ。まるで風に揺れる布を蹴りつけたよう――薄気味悪さにゾッと身震いする。
とにかく解放された。余計な事は考えずにビュウは走り出す。
せめて笛を吹く間だけでも余裕があれば。だが道のあちこちから同じような連中が湧いて出てきて、とてもそんな余裕は見つけられない。撒こうとしても、撒いた先にまた別の奴らがいる。意味がない。キリがない。ギリリ、と食い縛った歯が軋んだ。
どうする? 下手に捕まるわけにはいかない。あの、隙間に吸い込まれてどこかに消えた男の断末魔が、耳の奥でまだこだましている。
どうする? メロディアを探さなければ。彼女ももしかしたら、こうして追われているのかもしれないのだ。いや、あるいはもう――嫌な想像を頭から追い出す。
手掛かりはない。打開策もない。武器もない。道行く人に助けを求めるわけにはいかず、逆に見なかった振りをせざるを得ないのが叫びたくなるほどに悔しい。八方手詰まりだ。どうすれば――
ドンッ!
足に何かが絡まり、ビュウは盛大に石畳にダイブした。
「あああああああああっ!?」
絶叫。石の路面のゴロゴロと転がる。止まる。全身が痛い。しまった、こんな道で転がったらせっかく下ろしたばかりの服が――とそうではない! ビュウはバッと上体を起こす。
目に入ったのは、今ビュウをけつまずかせたもの。
同じように転がってのた打ち回っている、それは――
行方不明中のはずの、プチデビ三匹だった。
「何してくれてんだてめえら!?」
思わずガラ悪く叫ぶ。どうも、脇の小道から飛び出してきたのを気付かず蹴り飛ばしたらしい――悪いのはこちらかもしれないが、いや違う、こいつらが悪い! 決めつけ続く言葉を放とうとし、
「マニョッ!?(そのガラの悪い声はっ!?)」
「モニョッ!(ビュウっ!)」
「ムニョーッ!(今までどこに行ってたんだ、俺たちを放ったらかして!)」
「ニョーニョー喚いてる場合か! それよりお前ら、メロディアは――」
立ち上がり、駆けつけようとして――
サッ、と青白い顔の少年が立ち塞がる。
(しまった!)
背後に迫ってくるのは首が半ば取れかかった壮年の男。
左右に回り込んでくるのは魔法使いのローブを着た女。一人は胸を後ろから槍で貫かれ、もう一人は頭半分が潰され顔中血まみれだ。
囲まれ、腕を、肩を、背中を、腰を、掴まれ、捕らえられる。触れたところから否応なく伝わってくる、何かが吸い取られ、抜け落ちていくような喪失感を伴う冷気。ビュウは振りほどこうともがく。だが、振りほどいても振りほどいてもてはあちこちから伸びてきて、十重二十重の包囲網から抜け出さない限りどうしようもない。抜け出す事も出来ない。
万事休す。
足掻くビュウの体が、死体のような者たちによって押し潰されようとした、まさにその時だった。
「「「フレイムゲイズ!」」」
ッゴォォン!
響き渡る轟音。
天を焦がす業火。
肌を焼く熱。
包囲網のすぐ外で突如燃え上がった炎に、そいつらが弾かれたように退き始めた。最早ビュウの事などそっちのけで、我先にと炎から逃れ始める。中にはまだ彼を捕まえ、どこかに引きずっていこうとする者もいる。抵抗する。抵抗して時間を稼ぐ内に、再び傍で燃え上がる炎。ビュウの腕を掴んでいたそいつが弱々しい呻き声と共に離れた。
解放された。
ビュウは即座に走った。まだ燃えている炎の側に寄る。同じように薄気味悪い手から逃れてきたプチデビ三匹が、炎の前でお互い抱き合ってガタガタと震え始めた。無事を確認して、空を見上げる。
「ビュウさん、ご無事ですか!?」
ツインヘッドに乗ったネルボが、後ろにアナスタシアとエカテリーナを従えている。
その隣には、サラマンダーが頼もしい姿でバサリと一つ羽ばたき、高度を維持する。
何やら久しぶりに見る仲間の姿に――ビュウは安堵の息を吐き出した。
何が、起こっている?
サラマンダーにプチデビ三匹と共に乗り込んで飛び立ち、現在はゴドランド市の上空十メートル地点で滞空中。市街地には現在ライトアーマーに率いられたランサー隊とヘビーアーマー隊が展開し、あの連中――半実体化した亡霊たちを炎で退け、市民を救出中だ。
ネルボから報告を受け、ビュウは彼女たちが核心に近いところにいるのを察した。だから端的に問う。ウィザード三人は一瞬だけ視線を交わし、代表して話し始めたのはやはりネルボだった。
「――ラディアの魔法が流出したのです」
「何だと?」
ラディア。一昨日倒したグランベロスの女将軍。
「ちょっと待て、ラディアは倒したはずだ。それなのに……――流出って、どういう事だ?」
「あの培養槽です。あれは要石だったのです」
「要石?」
「ラディアの使用した『メイクアンデッド』という魔法を覚えてらっしゃいますか? おかしいとは思いませんでしたか? 人の霊魂を召喚し、死体に宿らせてアンデッド兵とする――口で言えば簡単に聞こえるでしょうが、霊魂を呼び出す、すなわち降霊術があんな短い詠唱で正しく機能するはずがないんです」
「……講釈は後でゆっくり聞くから結論から言ってくれ」
思わずこめかみを押さえると、ネルボは少し気分を害したようだった。しかしすぐにそんな場合ではないと気付いたらしい、淡々とした表情を繕って説明を続ける。
「すなわち、あの培養槽が我々で言うところの戦竜の役割を果たしていたのです。ラディアはあの培養槽で強靭なアンデッド兵を生成すると同時に、組み込んだ魔法で『メイクアンデッド』の速射性を実現していた」
「……って事は」
思い出す。ビュウたちが出掛ける前、ヘビーアーマー隊、ウィザード隊、ランサー隊がゴドランド政府に押しつけられた培養槽の撤去作業に取り掛かっていた。もしや、と思って顔色を変えれば、ネルボは神妙な顔で一つ頷く。
「原因は、その魔法を完全に解除しないまま培養槽を破壊してしまった事です。そのため、組み込まれた魔法が流出、希釈拡散した」
「――なら、あの亡霊どもは……それで半実体化した、って事か」
「所詮は術者のいない魔法の暴走です。それも特定の魔法を補佐するために組み込まれたもの、本当ならばここまで酷い事にはならなかったはずです。でも――日が悪かった」
「日が悪い? どういう意味だ?」
「ちょっと専門的な話になるけど」
ネルボから説明を引き継いだのはアナスタシアだ。彼女は少し身を乗り出すようにして、真顔をこちらに寄せてくる。
「魔法は、世界に呼び掛けて変化を起こす事。だから、世界の変化も魔法に影響を与えるの」
「……すまん、もっと解りやすく」
「今日はハロウィンです……ハロウィンという日の性質が、流出した魔法と組み合わさって……こんなに大規模な亡霊の顕現現象を、引き起こしたのではないか、と……」
「ハロウィンは、元々サムハインと呼ばれる祭りです。ゴドランドの魔女たちは、この日に夏が終わり、太陽の力が弱まっていくせいで死者の霊が戻ってくる、と考え、重要視していました」
エカテリーナの言葉を継いだネルボの捕捉で、ようやくビュウにも事態が飲み込めた。
ラディアの『メイクアンデッド』。
ハロウィン――いや、サムハインという祭り。
魔法が祭りの影響を受けた。死者の霊が戻ってくるとされていた日に流出した魔法が、本当に死者を呼び戻し、中途半端な実体を与えてしまった。
それが、ゴドランド市全域を襲った異常の真相。
それを巻き起こしたのは、ビュウたち、反乱軍。
「……責任を感じて落ち込んでいる場合ではありません、ビュウさん」
思わず視線を伏せた彼に、ネルボの声は冷ややかにすら聞こえた。
「私たちが今しなければいけない事は、この事態を収拾させる事です。責任の所在を明らかにし、追求するのは後でも出来ます」
「――分かっている」
ビュウもまた、事務的な声で応じた。
だが忘れてはならないのだ。
助けてくれ。そう叫んだ男は、あの亡霊たちに連れられてどこかへ消えてしまった。
おそらく後になって、行方不明者が大量に出ている事が判明するはずだ。
こんな事になるなんてビュウも、ネルボたちも、ゴドランド政府も予見していなかっただろう。もしかしたら、術者であったラディアでさえ。
けれど、回避できたのかもしれないのだ。
その可能性を逃してしまったという事を――忘れては、いけない。
そして同時に彼女の言う通りだった。悔やむのも落ち込むのも後回しだ。視線を戻す。年長のウィザードにやる視線は、戦場で見せるものと同じ鋭い光を宿していた。
「この事態を収拾させるには?」
「簡単です」
ネルボは、ローブの隠しから取り出した包みをこちらに掲げてみせる。
お菓子の包みのように見えた。
「お化けには、トリートです」
§
作戦は速やかに始まった。
ラッシュ、トゥルース、ビッケバッケの三人が街を疾走する。
抜き身の剣を引っ提げ、時折道を塞ぐ亡霊たちに『フレイムパルス』を浴びせ掛け、彼らはグネグネと曲線を描く石畳の道を走る、走る、走る。
その内に、道の左側に彼らが求めるものが見えてくる。ラッシュたちはそこに目掛けて更にスピードを上げた。
駆け込む。
バァンッ!
「なっ……!? な、何なんだいあんたたちは!?」
勢いを扉にぶつけるようにこじ開ければ、奥に引っ込んでいた中年の女が怯えと戸惑いの表情で顔を出してくる。三人は無言のまま、そして切羽詰まった形相のままツカツカと彼女に歩み寄る。女は恐怖に呻くと奥の戸棚に身を隠したが、すぐに恐る恐る顔を出して、
「……外の連中とは、違う?」
呟く彼女の前に歩み出て、
「これで」
剣を持つ手とは逆、左手にずっと握っていたそれを、差し出す。
財布だった。
「買えるだけのお菓子をくれ!」
お菓子屋の店主は、ポカンとラッシュを見た。
§
不意に視界が開けた。
広場に出る。そこにも亡霊たちがいる。背後に従うドンファンとゾラの息子が『フレイムダスト』を放ち、追い払う。上がる炎に亡霊たちがそそくさと逃げ出す中、ルキアは広場の中心にそれを見つけた。
「ドンファン、あれを!」
「オーケイ、ルキア!」
ドンファンの応答は短い。彼は走る。右手の槍を振る。ボゥッ、と宿る炎の色。振りかざす。
「フレイムダスト!」
放たれた炎槍が、広場の中央に摘まれていたかがり火のための薪に火をつけた。
炎が、勢いよく燃え上がる。
§
バルクレイはその大扉を叩いた。
「私は反乱軍の者です! 開けてください、お願いします!」
叫びながら、扉を叩き続ける。その背後――戦闘の入り口の前の階段で、グンソーが炎をまとわりつかせた斧を振り回している。迂闊に近付けない亡霊たち。だが急がなければ。
「開けてください、開けてください!」
と――木の戸を叩く手応えが、不意に消えた。拳が宙をかすめる。
扉は中からソッと引かれ、僅かに開いた隙間から、恐る恐るといった態で老人が顔を覗かせた。
「――君は……生きて、いるのかね?」
「先日お騒がせした反乱軍の者です。ご協力をお願いしに参りました!」
「……協力?」
訝しげな言葉に、バルクレイははい、と力強く頷く。
そして放たれた言葉に、鐘楼の管理人は更に訝しい顔をした。
「亡霊たちが消えるまで――鐘を、鳴らし続けてください!」
§
十月三十一日、午後二時。
鐘の音が、鳴り響く。
重く、低く、いつまでもいつまでも、どこまでもどこまでも、鐘は鳴り響き、響き続ける。
その音が、一つから二つ、二つから三つ、四つ、五つと重なり合っていく。
そうして、街中の鐘楼の大合唱が始まった。
その尖塔の足元で、舞い踊るものがある。
それは、熱。
それは、赤色。
それは、火の粉。
それは、炎。
街の多くの広場に詰まれた薪が、気の早いかがり火を焚いて暖かくも激しい熱を撒き散らす。
そんなゴドランドの街の空をゆっくりと飛ぶ影があった。
戦竜。
緋色と紫の二頭の竜が、緩やかに空を舞う。
時に高度を下げ。
時に高度を上げ。
時に弧を描き。
時に直線をなぞり。
その背に乗る者たちは大きな袋を携えている。聖夜と呼ばれる夜に、子供たちに贈り物を配って回る老聖人を彷彿とさせる大きな袋。彼らはその袋に手を突っ込むと、中の物をいっぱいに掴んで撒き放った。
バラバラ、バラバラ、バラバラ――
雨のように亡者たちの上に降り注ぐ、それは。
飴玉。
クッキー。
マーマレード。
マカロン。
その他諸々、多種多様な――お菓子だった。
そして、終局に向けての変化が始まる。
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