―2―



「機関部が石化してる、だとぉ!?」

 ハッ――
 そのホーネットの怒声で、ビュウは意識を取り戻した。
 目を開ける。飛び込んできたのはところどころひびの入った石の天井。時々雨漏りのする、ファーレンハイト艦橋の天井。何故そんなものを見ているのか、判らなくて一瞬混乱する。
「この非常時に冗談を言うんじゃねぇ! そんな場合じゃ――何!? だったら見に来い!? 馬鹿野郎、運行中に航空士が艦橋から離れられるか! お前こそもっとマシな報告をよこせ!」
 背中に当たる感触は固く、冷たい。そして頭は左側だけが妙にズキズキと痛む。顔をしかめて、ビュウはゆっくりと上体を起こした。
 どうして、床にそのまま寝ていたのだろう?
 いやそもそも、どうして気絶していた?
(俺は――)
 左側頭部に手をやれば、こぶが出来ていた。熱を持ち、それが脈打って痛みをもたらしている。どうしてこぶが。指先で触れるだけでも走る痛みにまた顔を歪め、
(俺は……)
 記憶の糸をたどりだしてすぐに、ギクリと身を強張らせた。

 不意に耳に蘇る哄笑。
 あの声は――

「――ビュウさん?」
 我に返る。かけられた柔らかい声に顔を上げれば、隣には床に膝を突いている女性が一人。淡い金髪を三つ編みにした、
「……フレデリカ、どうして君が――」
「良かった、私が分かるんですね」
 と、フレデリカはあからさまにホッとしてみせた。もれる安堵の息。しかしその表情はどこか硬い。いや……怯えて?
 その瞬間、薄闇がかった脳裏によぎる光景――

『――苦痛だ! 苦痛だ苦痛だ苦痛だ! 苦痛こそ救済! 苦悶こそ救世! さあもがき足掻きのた打ち回り伏して慈悲を乞え!』
『ビュウさん、やめてっ――きゃあああっ!』

 背中に、氷を落とされたような心地がした。
 頭の中に響いた甲高い悲痛な叫びは、妄想にしてはやけに生々しく、真に迫っていて、今もまだ耳にこびりついているよう。
 ビュウはフレデリカを見る。
 彼女の強張った安堵の顔を見る。
 その表情で、何があったのか、考えるまでもなく理解した。
「――フレデリカ……俺は、君に……何を、した?」
「ビュウさん……」
 彼女の顔に戸惑いの陰が差す。視線が伏せられ、泳いだ。
 何と話すべきか、迷っている表情。もどかしさとも苛立たしさともつかない衝動に駆られて、ビュウは彼女の肩を掴んでいた。ハッと顔を凍りつかせるフレデリカ。けれどその様子に気付かないまま強く揺さぶる。
「教えてくれ! 俺は、君に何をした!?」
「待って――やめて、ビュウさん、落ち着いて!」
 悲鳴じみた声を掻き消すかのように、声を荒らげるビュウ。
「落ち着いて? 落ち着けるか! 俺は、君を――」
「やめるんだ!」
 雷のように――
 降ってきた叱責の声に、彼は貫かれた。動きを止める。ぎこちない動きで声の方向を見上げるのと、フレデリカの肩にかけた手が手首ごと掴まれ、引き剥がされたのは、ほぼ同時だった。
「まだ錯乱しているのか、ビュウ。少し落ち着け」
「パルパレオス――」
 端整な顔立ちに気遣いと責めの色を浮かべて、元敵将はこちらの顔を覗き込んできた。
「……その質問になら、俺が答える。
 お前は、彼女に何もしていない。すまないとは思ったが、寸前で気絶してもらった。それから、治療のためにフレデリカに『クリーンアップ』をかけてもらった」
「そう、か……」
 言葉はほとんど溜め息となって、未だ騒然としている艦橋の空気に溶けて消える。
 胸の内に浮かんだのは安堵だった。フレデリカに何もしていない。傷つけていなかった。その事実にただホッとする。
「俺は……錯乱、していたのか」
「……ああ」
 パルパレオスの声は心配そうな調子に彩られていて、いつもならそこに居心地の悪さを感じるところだったが、今のビュウにはそんな余裕はなかった。ただ、自分のした事、しそうになった事に後悔し、しなかった事に安心する。
 記憶の糸を真面目にたぐらずとも、その時の光景を簡単に思い出す事が出来た。自分の狂った笑声。口が勝手に紡ぐ意味の通らない言葉の羅列。そして――フレデリカの、恐怖に凍りついた顔。
 その顔に、先程の強張った顔が重なる。
 刹那、ビュウは今度こそ自分のしでかした事に声を上げそうになった。
 待って、と。やめて、と。そう叫んだ彼女に何をした?
 襲われかけて、自分によって恐怖を味わって、それだというのに治療をしてくれたフレデリカに対し、何をした?
 無理矢理肩を掴んで、揺さぶって、詰め寄って。
 錯乱していた? そんな事は理由にならない。『クリーンアップ』で治療してもらっておいて、その言い訳は通用しない。
 俺は、何て事を!
 溜め息を吐いている場合ではなかった。安堵に浸っている場合でも、自分のした事を後悔している場合でもなかった。謝らなければ。ビュウは顔を上げ、
「フレ――」
「フレデリカ!」
 その彼の声を遮って、バタバタバタッ、騒がしい足音と共に艦橋に上がってきたのは――必死の形相の、ディアナ。
「戻って! 錯乱四名、石化九名追加! 手が足りないわ!」
「分かった! ――では将軍、ビュウさん、私はこれで」
 そう言って軽く頭を下げた彼女の顔には、もう怯えの色はない。あるのはプリーストとして狂気に冒された者を救おうとする真剣さだけ。立ち上がり、身を翻して階段口を駆け下りていく、彼女のその背中と踊る三つ編みに、思わず手を伸ばしかけ、
(――引き留めて、どうする?)
 下ろす。
 下手をすれば、また。自嘲気味にそう思って――ビュウは艦橋を見回した。
 操舵輪の側ではホーネットが伝声管に怒鳴り続け、クルーたちが血相を変えて何かを操作し、あるいはバタバタと騒がしく艦橋に出入りしている。どこかから怒号が聞こえる。悲鳴が聞こえる。戦竜たちの怯えに満ちた鳴き声さえ。
「――……落ち込んでいる場合じゃないな」
「ビュウ?」
 どうしたのかと聞き返してくるパルパレオスにかぶりを振って、彼は立ち上がった。
「何でもない。後回しだ。
 それで――状況は、どうなってる?」



 石化――十八名(全て治療済み)。
 錯乱――九名(ビュウを含む・応急処置済み、以降経過観察)。
 死亡――二名。
 その他――ファーレンハイト機関部完全停止、及び舵損傷。原因は石化。復旧の見通しは立たず。

 それが、大岩礁帯の近空域にさしかかった僅か十分足らずでもたらされた被害である。

 怒号はやみ――
 悲鳴は落ち着き――
 戦竜たちの鳴き声は、低い唸り声に代わり――
 ファーレンハイト艦橋に集った幹部たちは、そうして取り戻された静寂とはまた別種の沈黙に包まれていた。
 それ自体が重力を発生させていそうな、重々しくて、どこか暗い雰囲気を漂わせる沈黙である。
 ビュウは溜め息すら吐けず、途方に暮れたように顔を撫でて、被害状況の報告を頭の中で繰り返した。
 石化・錯乱は、まあいい。ビュウ自身も含め、大事には至っていないから。
 死亡についても――実のところ、二名で済んだのであれば運が良かった、と思う。
 かつてこの空域――いや、今ファーレンハイトがいるこの地点よりももっと大岩礁帯寄りで続発した船員変死事件では、他殺や自殺によらない死、つまり原因不明の突然死は全体の四分の一から三分の一を占めていたという。
 ファーレンハイトの全乗組員数は、八十七名。
 二十名か、最悪三十名近くが死んでいても、おかしくはなかったのだ。
 しかし、それよりもっと深刻なのが、
「――……つまり、動けん、という事か?」
「そうなるな」
 マテライトの要約にホーネットはあっさりと頷いた。
「プリーストたちによれば、『クリーンアップ』も万能薬も無効。石化解除の手立ては見当もつかないそうだ」
 機関部と舵の石化。
 そもそも、石化という現象は生物にしか起きない――無生物、もっといえば無機物は、広義では「石」とみなされるからだという。もともと石の物が、石化するわけがない。そういう理屈らしい。
 その無機物の集合体、ファーレンハイトの推進機関と舵が、石化した。
 これがまあ見事なまでに「石」化で、金属で出来ているはずの推進機関が文字通り石になってしまっている。整備用のハンマーで叩いたら欠けてしまったくらいの、見事な石っぷりだ。先程確認してきた舵もご同様。
 何故、無機物で、本来なら石化するはずのない推進機関と舵が、石になってしまったか。
 ウィザード隊とプリースト隊の見立ては、「強大な魔力が無理矢理機関を石に変えたのかも」。その魔力が何なのか、魔法ならばどんな魔法なのか、それを解明しない限り、石化解除の方法は見つからないかもしれない――
「お手上げ、でアリマスか……」
 タイチョーが呻く。陰鬱とした空気を更に重く澱ませる声音で。
「また、誰かが暴れたり石になったり……死んだりするかもしれない、でアリマス」
 ビュウを含めた二十九名が、暴れたり石になったりした騒動から、もう三十分ほど経過している。
 今のところ、状況は落ち着いているように見える。異変の第二波はやってこない。
 いや、「異変」ではない。
「攻撃」だ。

 大岩礁帯にひそむ、「何か」。

「……これも、岩礁の中におる『何か』の仕業か、パルパレオス」
 マテライトの声は低い。怒りと苛立ちを漂わせた声音は、すぐにでも爆発しそうな火山を思わせた。
 それに気付いていないのか、パルパレオスは腹立たしいほど素っ気なく、簡潔に、
「ああ、おそらく」
「そいつは何ものじゃ?」
「分からない」
 ビュウはこっそり会議の輪から一歩退く。
「岩礁帯のどこにいる?」
「分からない」
 ホーネットは我関せずといった顔色で操作盤に戻る。
「倒す手立ては」
「分からない」
 そしてタイチョーが両手で耳を塞ぎ、
「――何っっっっにも分からんと言うのかぁっ!」
 予想通りにマテライトは爆発した。
 その怒声がビリビリと艦橋の空気を震わせ、居合わせる者たちを厳しく打ち据える。
 そして、マテライトの性質上、一喝ぐらいで一度爆発した怒りが収まるわけがない。怒声の斉射がすぐに始まった。
「この空域を前に調査した、とか何とか偉そうに言うておいて、結局は何も分からんのか! 人をおちょくるのも大概にせい!」
「……すまない。だが、あの時は我々も逃げ帰るのに必死で――」
「言い訳など聞きたくもないわ! この役立たずが!」
 殴りつけるような激しい罵倒。
 パルパレオスは一瞬身を強張らせ、それから我慢するように顔を伏せ、歯を食い縛った。
 グッとこらえる彼の忍耐力を、どう見たのだろうか。マテライトはフンッ、と盛大に鼻で嘲笑う。
「そんな体たらくで『調査した』などとよくも言えたもんじゃ! それではその調査とやらも疑わしいのぅ! 本当は敵なんぞおらんのではないか!?」
「いや、いる。敵はいる。現に、ラディア将軍の二個小隊が全滅して――」
「ラディア? ――おお、ゴドランドにおったあの不気味な女か! ふん、アンデッドなどいつ倒れるか判らんものではないか! それが全滅したからと言って、敵がいるという証明にはならんわ!」
「だが――」
 とパルパレオスが言いかけた、その時だった。
 ――ふぅ……。
 溜め息が、響いた。
 疲れと呆れ、そしてそこはかとない苛立ちを宿した、深い溜め息。それが氷水となって、ヒートアップした空気を一瞬で冷却させる。
 二人が作り出していた不毛な言い争いの空気は、あっさりと貫かれ、切り裂かれ、四散させられた。叱られた子供のごとくマテライトとパルパレオスは言葉を止め、溜め息の主を同時に見やる。
 ヨヨだった。
 隣にセンダックを従えて、これまでずっと黙っていたヨヨが、眉間にしわを寄せて心持ち目を伏せて、冷めた表情で佇んでいた。
「――おやめなさい、マテライト」
「で、ですが、ヨヨ様――」
「他人を悪し様に言うなんて、それでもカーナのパレスアーマーですか? マテライト、私は悲しいわ」
「も、申し訳ございませぬ! つい……」
 ヨヨにかかれば、マテライトの怒りなぞこんなものである。きっちり直角に腰を曲げて頭を下げる老将の姿に、ヨヨは苦笑を漏らした。もういいわ、と肩を竦め、
「――ねえ、ビュウ?」
 いきなり話をこちらに振る。ビュウは疑問符と共にヨヨを見やった。
 そうして、彼女の淡い微笑みがスゥッと消えたのを見た。
「例えば、よ」
 と、彼女が始めた話は――

「敵の居場所と力がほぼ正確に判るとして、それで貴方はどんな作戦を立ててくれる?」

 ビュウは目を見開いた。
 ビュウだけでなく、パルパレオスも、マテライトも、タイチョーも、センダックさえ、驚きを持って彼女を見つめた。
「……ヨヨ? それは、どうい――」
「戦いましょう。ファーレンハイトが動けず、敵の的になるしかない今、私たちが生きる道はそこにしかないわ」
 パルパレオスの言葉を遮って、彼女は凛と宣言する。
 そしてビュウは、見た。
 彼女の眼差しに、苛烈なほどの光が宿っていたのを。
 それに隠れて、そこはかとない陰が見え隠れしているのを。
 その陰を、ビュウは見た覚えがあった。何度も見てきた。その陰と共に涙するヨヨを何度も慰めた。おそらく一番それに向き合ってきたのは、他ならないビュウ自身だろう。センダックでも、マテライトでも、パルパレオスでもなく。
 陰は、怯え。
 神竜に対し、恐れ、怯えていた頃の目だった。
 ヴァリトラ、リヴァイアサン、ガルーダ、ユルムンガルド、ヒューベリオン、そして、バハムート。オレルスに眠る全ての神竜を従え、受け入れ、彼女は名実共にドラグナーになった。もう恐れてなどいないはずだった。
 だが、彼女は恐れ、怯えている。
 神竜ではなく――敵を。
 何故だ。その疑問を脇に置き、ビュウは問うた。
「判るのか?」
「ええ」
「どうして」
 すると、ヨヨは薄く笑う。
 どことなく皮肉げで、哀れむような微笑だった。
「私の中の神竜たちが、とても恐れているのよ」
「――何?」
 そう尋ねたのは、ビュウか、パルパレオスか。しかし彼女は答えなかった。そして、有無を言わさぬ口調で一気に喋りだす。
「大岩礁帯のほぼ中心に、正六角形に近い形の小さなラグーンがあります。その中心に小山があり、その麓に洞窟が口を開けています。
 私たちの敵は、その奥にひそんでいる。人間では想像もつかないほど強大で深遠な憎悪と殺意と敵意を持つ、人でもなく魔物でもなく竜でもないもの――苦痛の王(キングオブペイン)。
 キングオブペインは、苦痛を投げかけてくるのです。それが人を狂わせ、死に至らしめる。かつて大岩礁帯の側で起こった船員変死事件は全て、それが原因です。その苦痛は今まではそれほど遠くまで届かなかった――けれど、目覚めて時が経ち、かつての力を取り戻しつつある。そうなれば、オレルスの空は滅亡する。今、何とかしないといけません。
 そして」
 ヨヨは、そこで言葉を切った。
 ビュウには言いたい事が色々あった。聞きたい事も山ほどあった。だが聞けなかった。到底聞ける雰囲気ではなかった。ヨヨが作り出した空気は質問も反論も受けつけず、ただ彼女の命令に従う事のみを要求している。
「それは、私にしか出来ない」
 ――何故だ。
 そう、声に出したかった。横目でチラリとパルパレオスを窺えば、彼もまた、問い質したそうにしていた。
「ヨヨ――」
 意を決して決行しようとするパルパレオス。しかし、
「ビュウ」
 聞こえなかったのか、無視したのか――かぶって放たれたヨヨのこちらへの呼びかけが、パルパレオスの問いを封じ込めた。口ごもり、口惜しげに口を閉ざす彼に、ビュウは同情を禁じ得ない。だが、そんな感傷に浸っている場合ではなかった。
「敵の力は強大よ。戦竜以上のブレスと、精神汚染で攻撃してくると思ってちょうだい。けれど、彼の当面の狙いはこの私。少なくとも彼のテリトリーに入るまでは」
 ビュウは目を見開く。
 サラリと紡がれた言葉の中に、聞き捨てならないものがあった。
「……ヨヨが、狙い? どういう事だ、それは」
「つまり、彼がひそむ洞窟に入るまで、皆が攻撃を受ける心配はない、という事よ」
「そうじゃない! そうじゃなくて――」
「感情的になるのは後回しにして、ビュウ」
 それは。
 以前のヨヨからは想像も出来ないほど、事務的で、冷徹で、残酷な声音。
 ビュウが絶句した、その隙を突くようにして彼女は告げた。

「目標は、どんな方法を使ってもキングオブペインを私の前に引きずり出す事。
 さぁ、ビュウ、考えてちょうだい」

 だが、こちらに向けてくる眼差しには、隠しきれないほどの怒りと苛立ちと恐れがある。
(そんな目をして、一体どの口で俺に「感情的になるな」なんて言うんだ……?)
 同時に彼は知っていた。
『私にしか出来ない』
『狙いはこの私よ』
 自分が、主にそんな事を言わせてしまう状況をそのままにしておくような男ではない事を。
 ビュウは、歯を食い縛ってから――溜め息を、吐いて、
「――承知いたしました、女王陛下」
 頭を、フル回転させ始めた。



§




 極を論ずれば、ただ眠っていたいのだ。
 何ものに揺り起こされる事もなく、この空の遥か底、無明の奈落の淵で夢すら見ずに眠っていたいのだ。
 本当ならば、ずっとそうしているはずだった。
 この世の始まりから終わりまで、永遠に、眠っているはずだった。
 意識すらなく、自我さえ芽生えず。

 それなのに、揺り起こされた。
 自我を植えつけられ、意識を与えられた。
 約束されていた永遠の安寧を奪われた。
 更なる憎悪と殺意と敵意と悲嘆と混乱と焦燥と狂気を押しつけられた。
 苦痛。
 自我を植えつけられ、意識を与えられ、肉体にすら押し込められ、もう苦痛と無縁ではいられなかった。深淵の眠りは遥かに遠く、まどろみさえ不確かなものとなった。
 本来持ち得なかった、持つ事さえなかったはずの憎悪を、自ら抱いてしまった。
 もう、後戻りは出来なくなった。
 無意識の楽園は遥かに遠く、堕とされた先は穢れた意識の煉獄。憎悪と殺意と敵意と悲嘆と混乱と焦燥と狂気の巷には苦悶が渦巻いていた。
 そこに、降臨した。


 ――今からおよそ数千年前の事。
 異世界から飛来した神なる竜が、禁断の箱を開けた時の話。

 

 

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