2.何と甘美な響きだろうか
星に選ばれた。
その昂揚に打ち震えていた翠蓮を我に返らせたのは、傍らにいた扈三娘の、こんな声だった。
「――何か、ヤバくない?」
聞かれるのを憚るような小声と、どこか焦りを滲ませる口調。我に返り、夢から覚めた時にも似た心地で、え、と間の抜けた声を漏らした翠蓮は、緊張した面持ちで周囲に視線を巡らせている扈三娘にならって辺りを見回した。
「ヤバい」の意味は、すぐに知れた。
場に、奇妙な――いや、異様な空気が漂い始めているのだ。
その空気の源は、王倫と四人の宿星の攻撃から辛くも生き残った梁山泊の手下たちだ。彼らのほぼ全員が傷付いている。心身共に。それもそうだ。宿星らの攻撃に巻き込まれただけではない。彼らは――……王倫に、裏切られたのだ。
第一の頭領と仰いでいた、王倫に。
道術黒の言霊≠フ影響もあっただろうけれど、それでも、彼らにとって王倫は光だった。太陽にも神にも近い存在だった。
その神に裏切られ、捨てられた手下たちは皆、ゾッと背筋が薄ら寒くなるような雰囲気を醸し出していた。
皆、当たり前のような顔をして悠々とやってきた替天行道の面々をジッと見つめている。だがその目が、何と言うか……虚ろなのだ。
王倫の術から脱していない、というわけではなさそうだ。虚ろと言えど表情は様々だし、怪我人を助けようという声もあちこちから聞こえる。いや、むしろそちらの方が多い。けれど彼らは、虚ろな眼差しで替天の皆を注視しているのだ。虚ろな……剣呑な、目で。
これはいけない。翠蓮は反射的に思っていた。ああいう目をした者を、彼女はこれまで何人も見てきた。戴宗に連れられてあとにした故郷の村で、あるいはその近隣で。
働き手を労役に奪われ、僅かな蓄えや稼ぎは税に持っていかれ、畑を耕しても家族全員を食べさせるだけの実りを得られず、飢え、困窮し、生まれたばかりの我が子を殺して食うか、あるいはいっそ県の役所に押し入って蔵から麦を奪ってくるか――そんな自殺行為の算段を練るほどに切羽詰まった村人と、同じ目だ。自棄になって、どうにでもなれと捨て鉢になった者の目だ。
緊張に強張った表情で手下たちを見つめながら、ジリ、と一歩退く扈三娘は、同時に翠蓮を背後にかばった。手下たちの動向を警戒する動き。翠蓮もまた、扈三娘の動きに呼応して一歩後ろに下がる。
ジリジリと、焼けた石が周りを焦がすように広がる手下たちの危うい雰囲気。それは林冲や花和尚、どこかへ行こうとする公孫勝や彼を押し留める劉唐ら替天行道の同志(メンバー)にも伝わり、彼らは皆、一斉に表情を引き締めた。
高まる緊張感は両者を睨み合わせ、奇妙な一触即発の空気を醸し出す。その中で、翠蓮はどうして、と慄きの呟きを口中で転がした。
だって、もう戦いは終わったのに。
どうして比較的怪我の軽い手下たちは、花和尚らを剣呑で虚ろな目で睨みながらユラリと立ち上がり、一歩踏み出そうとしているのか。
どうして花和尚らは傷付いた彼らを睨み返し、禅杖を、ヌンチャクを、人斬包丁を、鉄算盤を構えようとしているのか。
花和尚らの傍にいる林冲が、危険な方向へと高まっていく緊張感に表情を鋭くさせる。そして蛇矛の柄を握り直し、替天行道へと詰め寄らんとする手下たちを睨み据えて――
――――ザッ。
その場の誰より早く動いた影が、あった。
三つである。その動きは翠蓮たちのすぐ傍から生まれ、ザッ、ザッ、と大きな足音を立てて花和尚らへと歩み寄る。
まるで、こちらを見ろと言わんばかりの足音の大きさだ。
それはおそらく、そういう意図によるものなのだろう。手下たちが、花和尚らが、そして林冲が機先を制されてきょとんと目を瞬かせる中、三つの人影は僅かな距離を踏破して花和尚らの前に立った。
杜遷。
宋万。
そして――朱貴。
王倫亡き今、梁山泊の一の頭領は繰り上がりで杜遷であるはず。大柄な花和尚より更に大きい杜遷は、しかし相手の佇まいに気圧されているのか、精一杯に表情を引き締め、胸を張り、花和尚と相対した。彼を支えるように後ろに控える宋万と朱貴は、それぞれいつもとそう変わらない表情だ――むっつりと押し黙った無表情と、人を食ったような微笑。
けれど、どことない緊張が見て取れた。
その中、杜遷が、口を開く。
「……梁山泊第二頭領、着天金剛杜遷」
名乗りだった。強張っているが震えていない、替天行道を牽制し、手下たちを制止する、凛とした堂々たる声だった。
「第三頭領、雲裏金剛宋万」
「同じく第四頭領、旱地忽律朱貴」
続く宋万、朱貴の名乗りもまた、杜遷に負けず劣らない堂々たるものである。その声は異様な高まりを見せていた手下たちの緊張に水を差し、見事に押し留めた。
対する花和尚は、
「替天行道幹部、花和尚魯智深だ」
と名乗り返す。表情を少し和らげ、穏やかに張りのあるよく通る声を出して。
杜遷が、三人を代表して言った。
「湖から攻めてきた官軍を撃退してくれた事に、まずは感謝するよ。ありがとう、おかげで梁山泊は助かった。
でも――聞きたい事がある」
「何だ?」
声に険を滲ませた杜遷に対し、花和尚はあくまで穏やかだ。鼻白んだ表情を何とか引き締め、彼は、問いを投げかける。
「お前たち替天行道が梁山泊を乗っ取る、というのは、本当なのかぃ?」
「――――っ!」
翠蓮は息を飲む。いや翠蓮だけではない。林冲も、扈三娘も、顔色を変えて表情を凍りつかせ、息を止め絶句して杜遷を注視する。
それを――それを、ここで、問うか!
この、手下たちが異様に緊張している、この場で!
花和尚の後ろに控える蔣敬や王定六、劉唐までもが表情を引き締め強張らせ、張青や孫二娘、公孫勝などは表情こそ変えないものの手下たちの方へと素早く視線を走らせる。彼らもまた、警戒しているのだ。
手下たちの、暴走を。
その中にあって、杜遷、宋万、朱貴と、彼ら三人と対峙している花和尚だけが、いっそ場違いなほどに泰然自若としていた。
手下たちの間に流れている緊張が、更に張り詰めていく。破裂寸前まで。
破裂、という、自分の心の中に不意に浮かんだ単語に、翠蓮はギョッとした。そして改めて慄いた。
破裂?
破裂、したら――――
そんな緊張感溢れる危惧の中、
花和尚が、不意に笑った。
「左様!」
大音声。
はつらつとした声で放たれたそれは――誤魔化しようもないほどの、強い肯定の言葉。
何て、事を。翠蓮が愕然とし、手下たちの間にザワリとざわめきが波紋のように走る中、見かねた林冲が割って入ろうと口を開き、
「乗っ取ってどうするつもりか、聞いていいかぃ?」
それを制するような杜遷の再びの問い。
その表情は、まるで戦いの時のように鋭く厳しい。
花和尚の笑みに楽しそうな色がよぎる。
「無論――我ら替天行道の本拠地とする。国と戦うための拠点に」
国と、戦う。
その言葉が響いた途端――手下たちの雰囲気に、変化が生まれた。
戸惑うような動揺するような揺らぎが、さざなみのように彼らの間を走ったのだ。
杜遷は、更に問う。
「お前たちに乗っ取られた僕らは、どうなる?」
それに――
花和尚は、ひどくあっけらかんとした口調で答えた。
翠蓮が、翠蓮たちが拍子抜けし、唖然とするほど、あっけらかんと。
「どうもせんよ」
無造作な言葉である。
杜遷の緊張に対する応えにしては、余りにも無造作で、あっけらかんとしすぎていて、思わず、
「……はい?」
と、翠蓮の口から間の抜けた呟きが漏れるほどの何気なさである。
替天行道、梁山泊、双方の者たち(一部を除く)を唖然とさせた花和尚は、ぶぁはははと呵々大笑した。
皆の警戒を、笑い飛ばした。
「どうもせんどうもせん! わしらはここを拠点にしたいだけ。お主らを追い出す事も無理矢理従える事もせんよ」
……さっきまでの緊迫感はどこへ行った。破裂しそうなほどの緊張感は。一触即発の、身が竦み上がるほどの空気は。
それら全てを笑ってどこかへやってしまった花和尚は、自ら杜遷に歩み寄ってその肩をバシバシと強く叩くと、彼の緊張を解くような殊更に朗らかな声で語りかけた。
「まあもちろん、お主らがわしらの志に共鳴し、共に戦いたいと言ってくれるのであれば大歓迎だ。その時は、共にこの国と戦おう!
だが、わしらからは決して強制はしない。決断をすぐに迫ったりもしない。わしらと共に戦ってゆく事について、ゆっくり考えてくれ」
「ま――ちょっと待った!」
うろたえた声を張り上げる杜遷。やはりうろたえた表情で一歩退き、花和尚から距離を取ると、あわあわしながら戸惑いの言葉を放った。
「な、何でお前らがここに居座る事が前提になっているんだぃ!? 僕らがお前らを受け入れず、力ずくで追い出すって考えないのかぃ!?」
そうだ、と翠蓮は気付く。
花和尚の言葉は、替天行道がこのまま梁山泊にい続ける事を前提としたものだ。この梁山泊がこのまま替天行道の本拠地となる事を前提としたものだ。
だがしかし、ここにはまだ、替天行道の同志ではない梁山泊の手下がいる。杜遷や宋万、朱貴といった頭領たちもいる。
彼らが、そうだ、力ずくで花和尚らを、翠蓮たちを排除する事もあるかもしれないのだ。替天行道の同志にはならないと、替天行道の志を拒否して。
だがしかし。
杜遷のその声に、花和尚は、ニヤリと笑う。
少し不敵な、悪戯坊主のような笑みだった。
「やってみるかな?」
余裕の溢れる笑み。
余裕の溢れる声。
その余裕は自信に裏打ちされたものだ。例え実力行使に訴えられてもそれを跳ね返せるだけの力がある、という。
それを感じ取ってグッと押し黙る杜遷の脇から、朱貴が僅かに歩み出た。そして、油断のならない笑みのまま、言う。
「やー、それは……脅しかい?」
何と直截な!
思わず唖然とする翠蓮の眼前で、やはり花和尚は余裕ある笑みのまま、
「さて、どうかな。
――しかし、今はまず」
と。
花和尚は不意に、ともすれば挑発的でさえあった笑顔を消し、真剣で、痛ましげで、悼む静かな表情を見せた。眼差しを、朱貴たちから成り行きを見守っていた周囲の手下たちにやり、
「負傷者の手当てと、城壁と門の修繕、それに……――死者の弔いを、すべきではないかな?」
「……そうだね」
と、応じる朱貴もまた、いつもの笑みを消していた。同じく手下たちをザッと見回し、それから花和尚らに視線を戻す。
「志云々、同志云々はさておいて、とりあえず今は手を貸してくれるかい、替天行道のお歴々?」
「もちろん」
花和尚の声に呼応するように、他の六人もまた、頷いた。
そこから先は、目が回るような忙しさだった。
負傷した者の手当てには公孫勝の治癒泡(チワワ)が大活躍だった。だが、治癒泡では治り切らない重傷の者たちも多い。そんな彼らの手当ての手伝いで、翠蓮はそれこそ馬車馬のように走り回り、働いた。
矢じりの摘出。切創の縫合。骨折の固定。火傷の冷却。爛れた皮膚に湿布するための薬草の調合とさらし布の準備。縫合のための糸や針の煮沸消毒。とにかく走り回った。働いた。替天の同志らによる処置も山賊らによるそれも素人目にも危うく映るほど荒っぽくて、つい「お医者様はおられませんかー!?」と叫んでしまった。
昼過ぎ頃には炊き出しの手伝いをした。主に働いたのは孫二娘と張青、そして朱貴で、翠蓮は食器を運んだり、三人が作った羹(スープ)を取りに来られない怪我人に配って回ったりした。
午後に、花和尚による死者の弔いが始まった。
四人の宿星と王倫の暴威による犠牲者は、実に百人を超えた。怪我の軽かった者、あるいは幸いにして怪我のなかった者たちが率先して梁山泊北側の共同墓地に墓を掘り、友を、仲間を、兄貴分を弟分を埋葬していく。
涙と共に。
あるいは、無言で。
山賊らが黙々と埋葬していくのを、翠蓮は、少し離れた所で見つめていた。何か手伝う事があればと思ったが、大人の男一人分の墓穴を掘るには翠蓮はまだ非力だった。それ以上に、彼らは仲間の弔いを自分たちの手でやりたがった。だから翠蓮の手はもちろんの事、林冲や劉唐の申し出も断った。
ただ、花和尚の読経の申し出だけは受け入れた。
その、低いがよく通る読経の声が、共同墓地の空に響いて吸い込まれていく。手下たちは誰も彼もが仲間の墓に手を合わせ、中には泣き崩れる者もいる。
杜遷や宋万、朱貴は、そんな彼らの間を歩き回り、肩を叩いたり、声をかけたり、あるいはただ無言で寄り添ったりしていた。
離れた所から、翠蓮は手を合わせて瞑目する。杜遷たち以外とはろくに付き合いがなかったけれど、それでも彼らの中には昨日顔を合わせたり、僅かにでも言葉を交わした者がいるかも知れず、何より朝まで確かに生きていて、そしてあんな形で殺されてしまったのだ。
悼む気持ちは、どうしたって湧いてくる。
そんな時、翠蓮は――声を、聞いた。
「――手紙だよー」
(……え?)
瞑目するついでに伏していた顔を、上げる。
そして辺りを見回す。
響くのは手下たちの嗚咽、杜遷や朱貴の慰めや叱咤の声、花和尚の読経だ。
「……? どうかしましたか、翠蓮殿?」
唐突に辺りを見回し始めた彼女を不審に思ったか、隣で埋葬の様子を見守っていた林冲が声を寄越してくる。
「いえ……」
そんな彼へ、言葉を濁し、
「――何でもないです」
翠蓮は、そう言い切った。
きっと気のせいだ。
今聞こえた声が――周囲の声よりずっと小さいのに、何故かそれらよりずっとずっとはっきりと耳に飛び込んできた、なんて。
それからも仕事は山積みだった。
官軍の攻勢を乗り切った直後こそ厳に警戒すべしと、すぐに歩哨・巡視の体勢が整えられた。警備に立つのは林冲や杜遷、宋万、劉唐らを中心とした負傷していない者、負傷の度合いが軽い者たちである。
彼らが主に城壁などの梁山泊外縁部で外からの敵に警戒するのに対し、扈三娘や王定六などは、内部の巡視に割り当てられていた。それは、
『先程星が多く流れた。梁山泊に侵攻してくるはずだった宿星軍が壊滅に近い打撃を受けたのだろう――おそらくは、戴宗によって。
だから敵も「空からの強襲」という星の力が必要な攻撃方法を取れはしないだろうが、念のため、な』
という花和尚らの判断によるものである。
林冲が、扈三娘が、杜遷や宋万や朱貴が、そして劉唐や蔣敬や王定六、公孫勝にまで何かしらの仕事が割り振られていたにも関わらず、翠蓮に与えられたのは「その手伝い」――つまり、雑用だった。使い走り、付き添い、メモ取り、夕飯の炊き出しの材料切り、そんな誰にでも出来るこまごまとした雑事の処理。
翠蓮が指示されたのは、主にそういった事だった。
そういった事しか許されなかった。
もどかしくて、悔しかった。
こんな大変な時にそんな事しか出来ないし、させてもらえない。お前には何も出来ない、と言われているような気がした。そして翠蓮はそれに何一つとして反論できなかった。その通りなのだ。
林冲や扈三娘のように、戦う術など持っていない。
杜遷や宋万のような力も、手下たちからの信頼もない。
朱貴や孫二娘、張青のように、誰の舌も唸らせる料理の腕もない。
公孫勝のように、特別な力もない。
(――でも)
食堂の厨房ではなく、外の焚き火にかけられた大鍋の中を大きな匙で掻き回しながら、落ち込んでいく気持ちを無理矢理奮い立たせる翠蓮。
(私だって、星の力さえ使いこなせるようになれば――)
今朝、翠蓮に宿った地獣星。
宿ったばかりでどんな力があるかも分からないし、宿星になったという実感もない、どうやってその力を発揮すればいいのかも分からない。戴宗は確か、「正しい使い方は武具に宿す」と言っていたか? 天山勇は退く直前に「宿星と武器の因果が強ければ強いほど、力の共鳴(シンクロ)率が上がる」とか言っていたと思う。
翠蓮には星の力を宿すべき武器はない。ましてや、己と強い因果で結ばれた武器など。
だから、戴宗の言ったような「正しい使い方」が出来るかどうか分からない。けれど、この力を正しく使いこなせるようになれば――
(――……戴宗さん)
……戴宗は、退く天山勇を追っていってから行方不明だった。
神行昇龍と神行飛龍を併用しての飛行で天山勇を追い、しかし途中で落ちた。それは梁山の北麓の辺りである。昼頃に手隙の者が見に行ったけれど、そこには地面を一直線にえぐった跡――十中八九、戴宗が宿星軍と戦った痕跡――があるだけで、人っ子一人いなかったという。
そこから先、彼がどうなったかは杳として知れない。
梁山泊外へ探しに行こうにも、誰も彼もが手一杯でそれどころではない。
戴宗は、どうしているだろう。
今、どこで何をしているのだろう。
無銭飲食などして人様に迷惑をかけてはいないか。誰かに喧嘩を吹っかけてはいないか。……怪我をして、動けなくなってはいないか。
翠蓮は、それがただただ心配だった。
不安だった。
「戴宗さん――」
心配で、不安で。誰も答える人などいないと分かっているのに、その名を囁く。
顔を上げ、空を見上げる。
もう夕刻だった。太陽が山の端へと隠れそうになっている西の空は鮮やかな茜色に、東の空は夜の到来を感じさせる濃い青色へと変じつつある。
その、西の空が、
「――――――――っ!?」
突然、更に鮮やかな赤色に染まった。
赤い赤い、炎の色だった。
巨大な火柱が上がっていた。
梁山泊の西――済州側の湖畔で。
「――おい、あれ……!」
「火柱――!?」
「またあの連中、か――!?」
「あの辺りは、確か石碣村――」
「誰か物見に――」
間違いない。
間違いなかった。
手下たちが、そして異変を察知した替天の同志たちが西の空を見つめる中、翠蓮は慄きにも似た確信を得た。
あれは、戴宗だ。
戴宗の、炎だった。
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