カーナ軍の退役軍人がどのような扱いを受けるか。
 勤続年数と退役時の階級にもよるが、その待遇は基本的に二つ。
 その一つが、退役年金である。
 十年以上兵役に就いていた者に受給資格が認められるこれは、階級により支給額に大きく差が出る。トゥルースたちの例を取れば、十五年務めて未だ兵卒のままのビッケバッケは一月二千ピロー、下士官のラッシュは五千ピロー、そして士官のトゥルースは一万ピローである。退役後は三人で頑張っていこうと決めていたトゥルースたちだが、月一万七千ピローもの収入があれば、しばらくは再就職先を探さなくても生活していける。
 もう一つが、予備役。
 読んで字のごとく、予備の軍人。退役軍人で構成されたそれは、本隊の人員確保のために駆り出される。例えば、他国の侵略を受けた時。軍本部は彼らに命令を下し、各隊に配備させる。予備役の軍人は、本隊に合流してすぐに戦力となれるよう、定期的な訓練を義務付けられている。ちなみにその訓練の際、僅かばかりではあるが手当が支払われる。
 そして予備役軍人は、予備役であっても軍人である。軍人という職業についてくるあらゆる特典――例えば税金の優遇だとか――は、予備役になっても変わらない。
 このどちらも、退役軍人にとっては当たり前の待遇だ。例えば不名誉除隊になっただとか、例えば戦闘を行うには困難な障害を負って退役せざるを得なかっただとか、そういう事でもない限り、拒否する事も拒絶される事もまずない。年金を受け取って、悠々自適に生活しつつ、時には訓練で体を動かす――というのが、カーナの退役軍人の一般的な生活と言えた。

 ――が。

 それがまさか、上官の根回しによって知らない内に全て奪い去られていたとは。



 その後、事務局をどう辞したか。
 後になっても、トゥルースはそれを思い出す事が出来なかった。
 ただ覚えているのは、
「あいつ……何なんだよ、何のつもりなんだよ……!」
 わざわざ書いたのに突き返された書類を握り潰し、悔しそうに呻いたラッシュの声と、
「アニキ……何で、こんな事したのかな……」
 という、ビッケバッケの信じられないといった風な声だった。
 そしてトゥルース自身といえば、ビュウが何故そんな事をしたのかがまるで分からず、ただただ呆然とするばかりだった。



 けれど退役届が受理されてしまった以上最早待ったは利かず、三人はそれからの日々を目まぐるしく過ごす事となった。
 まずしなければいけなかったのが、書類仕事の片付け。特にラッシュとビッケバッケはそういう事務仕事が大の苦手だったから、所々トゥルースの助けを借りざるを得なかった。溜めに溜めた報告書の山をたったの五日で片付けられたのは、トゥルースの手伝いのおかげに他ならない。
 それからやったのは、それ以外の残務整理。
 ラッシュは、今年の初めにビュウから押し付けられた新人の訓練監督をこれが最後とばかりに力を入れてやっていた。面倒見の良いラッシュを慕う後輩たちは、もう受けられなくなるラッシュの訓練にいつもより熱を入れていた。
 ビッケバッケは、戦竜の世話。結局一兵卒で終わる彼は、トゥルースたち三人の中で最も長く竜舎に入り浸り、戦竜の世話をしてきた事になる。そこで覚えたノウハウ後任に伝授しているらしく、熱心に話をしている姿をトゥルースは幾度か見かけた。
 トゥルース自身の残務整理は、煩雑なものだった。士官の退役となると、指揮系統に穴が一つ空く事になる。だから、トゥルース自身が自らの後任を選ぶ羽目になった。トゥルースの指揮していた小隊の中で、第三位の指揮権を持つ(ちなみに第二位は下士官のラッシュだ)、今年士官になった若い騎士。そういえば自分が士官になった頃はこんな風にガチガチで先輩の士官と相対する度に緊張しっぱなしだったか、と妙に懐かしく思いだした。
 それ以外にも、いくつかしておかなければいけない事はあった。
 彼は、何度かビュウの秘書の真似事をした。その彼がいなくなった暁には、ビュウは別の者にその役目を与える事だろう。それは副隊長か、それとも別の者か。副隊長は副隊長で仕事は色々あるから、ビュウは違う者を選ぶだろう。見当は何人か付く。彼ら全員に引き継ぎが出来るだろうか――

 と心配していたら、ビュウに執務室に呼び出されて、
「秘書役の後任、誰に任せられる?」
「……隊長がご自身で決められれば?」
「お前の見立てに任す」
「――……では、ベリンガーではどうです? 機転は利きますし、事務処理がそこそこ出来ます」
「ベリンガーか……。じゃあ、あいつにするか。引き継ぎ、しっかりな」
「……もちろんです」

 あれ以来、ビュウに対し何か溝のようなものを感じているトゥルース。
 以前のように、気軽にどうという事のない会話を交わす事も出来ないまま――



 三人の退役の日は、やってきた。



 多くの者が、トゥルースたちの退役を惜しんでくれた。

 何で急に。まだ早いんじゃないのか。寂しくなるな。辞めてどうするんだよ。元気でやれよ。

 詰め所で、練兵場で、話を聞きつけた隊員たちから声を掛けられる。それに一つ一つ答えながら、しかし彼らはこれからの事についてだけは、語らなかった。
 顔見知りたちに挨拶し、三人は、ついに慣れ親しんだ練兵場を後にする。

 この場所で、何もかもが始まった。
 根なし草のような生活が終わり、規律も上下関係も訓練も厳しい軍隊生活に飛び込んで、早十余年。剣術も、戦術も、言葉遣いも、忍耐も、忠誠も、歴史も、算術も、礼儀作法も、歩き方も、立ち方さえ、全てここで学んだ。

 胸の奥から、どうしようもない、言葉にしようのない衝動が込み上げてきた。
 泣きたいような、笑いたいような、留まりたいような、立ち去りたいような。

 それは、感傷なのだろうか。
 それとも、感慨なのだろうか。

「……行くか」
「……えぇ」
「……うん」
 その衝動から、無理矢理目を逸らして。
 トゥルースたちは、足を通用門へと向けた。
 そこは、彼らのような一般の士官や兵卒、あるいは小間使いたち、御用聞きの商人たちが出入りに使う門だ。王族や貴族、あるいは他国の大使などが出入りに使う正門とは違い、城の裏手にあり、造りもそう立派ではない。
 もう日が暮れる時間だ。昼間ほど、人の出入りはない。石造りの城壁にポッカリとしつらえられた、両開きの木製の扉。両側とも大きく開け放たれているのは、この時間帯でもたまに出入りの商人が品物を荷馬車ごと持ち込むからである。が、さすがに今はそれもなく、通用門の側には人が一人いるだけ。門のすぐ横に立って、腕を組んで所在なさそうに空を見上げている。
 と、近付いてくるこちらに気付いたか、ふと顔を戻した。
 目が合った。

 それは、見慣れた蒼穹の双眸。

「よぉ、割りと早かったな」
「ビュウ……!」
「隊長……」
「アニキ!」
 練兵場に顔を出さなかったビュウが、目元を僅かに緩ませ、口元に薄い笑みを浮かべてそこにいた。
 執務室から抜け出してきたらしい略式平服姿。珍しく、仕事をサボっているのだろうか。二日ほど前に秘書役の引き継ぎをしたベリンガーは、きっと今頃オタオタしているに違いない――ではなくて。
「あんた、何で、ここに」
「決まってるだろ。見送りだ」
 ラッシュの硬い声に、ビュウはいつものあの平然とした口調で返した。表面だけは穏やかで、しかしその奥に何を潜めているのかまるで読めない、あのいつもの口調で。
 それから、何となしに沈黙が続いた。何と切り出せば良いか、トゥルースには判らない。それはラッシュやビッケバッケも同じようで、やはり何か言いたげで、しかし何を言っていいのか判らないような戸惑いの表情を浮かべていた。
 けれどその一方で、ビュウは落ち着いたものだった。まるで、全てお見通しと言わんばかりに。かつては頼もしく見えていた眼前の微笑が、今は逆に何だか不気味に見えて仕方がない。

 それは、やはりあれからギクシャクしてしまったせいなのだろう。

 その硬さを振り払うように。

「ちょうど良かった」

 ラッシュが、声を上げた。

「ビュウに、聞きたい事があったんだ」
「聞きたい事? 何だ?」
「とぼけんな」
 ラッシュの声は、険を帯びている。それも、尋常ではないほどに――今にも飛び掛かっていってしまいそうなほどに。
「決まってんだろ。俺たちの年金と、予備役の事だ」
「……あぁ、あれか」
 言われて初めて思い出したらしい。ビュウは少しだけ間を置いて、やっと頷いた。
「結構苦労したぞ」
「ふざけんじゃねぇ! 一体何のつもりだ、何であんな事しやがった!? 答えろ!」
 通用門前に響き渡る、ラッシュの怒声――
 そのこだまが消えてようやく、ビュウは、僅かに興醒めした顔をして、
「……俺から聞く必要があるのか、そんな事?」
「てっ……めぇっ!」
「――ラッシュ!」
 拳を振り上げ飛び掛かろうとしたラッシュを、背後からトゥルースが抑えた。
「駄目です!」
「放せ、トゥルース! 一発くらいぶん殴ってやる! もう上官でも何でもねぇんだ!」
「――トゥルース、放してやれ」
 ビュウの静かな声に、トゥルースはハッと目を向ける。
「何を言っているんですか、隊長!」
「……退役しておいて今更『隊長』もないと思うが、まぁ、いいや。
 ラッシュ」
 背中から羽交い絞めにされてもがくラッシュが、ビュウを睨みつける。
「俺を、殴りたいのか?」
「当たり前だ!」
 その怒声が、契機だった。
「大体昔っから気に入らねぇんだよ、そのすました面が! 俺はお前たちと違って何でも解ってます、って顔しやがって! 知ってたぞ、てめえが俺たちの事ずっと見下してたの! 気分良いよなぁ、俺たちみたいな出来の悪いガキがずっとてめえに従ってたんだからな! はっ! 冗談じゃねぇぜ、てめえ、俺たちをどう思ってやがった!? ずっと一緒にいた俺たちを、どう思ってたんだ!? 答えろよ!」
「…………」
「どうせ、あんたに追いつこうと必死になってた俺たちを陰で笑ってたんだろ!? 結局あんたにとって、俺たちは……その程度の存在でしかなかったんだろ!? そうなんだろ!?」
「…………」
「答えろよ、ビュウっ!」
 この数日間――いや、この十五年近くの間溜め込んできたものを、一気に吐き出したラッシュ。怒声はいつしか絶叫となり、喉が割れんばかりの叫びは玉座にまで届いているのではないかとばかりに響き渡っている。
 その中、ビュウはただ静かにラッシュの声を聞いていた。先程までの笑みは消え失せ、つまらないものを見るような半眼で、荒い息を吐く彼を見下ろしている。
 そうして、しばし。
「……トゥルース」
 不意に呼ばれ、トゥルースはビュウに視線を定めた。
「放してやれ」
「で、ですが隊長――」
「一発殴ってすっきりするなら、別にいくらでも殴られてやるよ」
 投げやり気味の口調。肩を竦めてさえいる。その態度に、ラッシュは更にいきり立った。
「――放せ、トゥルース」
「ラッシュ」
「ぶん殴られねぇと解らねぇ、ってんなら、一発でも何発でも殴ってやる! 歯ぁ食い縛れビュウ――」

「その代わり、俺を殴ったらどうなるか、よく考えてからやるんだな」

 その途端。
 気勢が削がれたように、ラッシュはピタリと動きを止めた。
 トゥルースに羽交い絞めにされたまま、拳を振り上げていたラッシュ。こちらの手を振り解こうとする動きが止まり、ぱちくりと目を見開いて鼻白んでいる。
「もう退役したお前たちは、どこにでもいるただの一般人だ。十把一絡げの、力も権力も権限も何も持っていない無力な民だ。守られる権利を持つ代わりに法律を守る義務を強いられている、ごくごく普通の民衆だ」
「…………」
 今度はこちらが押し黙る番だった。ビュウの言葉は、続く。
「一方、俺は現役の軍人だ。戦竜隊隊長、カーナ軍将軍、国の要人の一人だ。民衆を守る義務と引き換えに、力も権力も権限もお前たちとは比べ物にならないほど持っている」
「…………」
「ラッシュ、お前」
 ビュウの表情は、動かない。

「一民衆が国の要人を怒り任せに殴ったらどうなるか、解ってるのか?」

 ラッシュの体に、震えが走った。
 その震えが動揺によるものだと、トゥルースにはすぐに判った。
 ラッシュは今、確実に動揺した。ビュウのその言葉で。彼の言葉を、理解する事で。

「こんな単純な事を、俺に言われないと気付かないなんて……お前ら、いつまで俺に頼れば気が済む?」
 凪のように静かだったその表情に、激情がひそやかに浮かんだ。半眼はいつの間にか険を帯び、件の切っ先のごとく鋭くトゥルースたち三人に突きつけられる。
「俺が何で、お前たちの年金と予備役を取り消したか、だと? そんなモン自分の頭で考えろ。いつまでも俺からの答えを期待してるな。お前たちは」
 と、言葉を切って。

 激情が、浮かんだ時と同じくらいひそやかに、しかし唐突に、和らいだ。

「お前たちは、これからお前たちだけの道を歩いていくんだ。自分の頭を使って考えて、自分で答えを出せ」

 そして。
 ビュウが、こちらに向かって歩き出した。
 自分たちの前にたち、最後の訓示を垂れるか――そう思って、いつものように身構えて。

「俺からはそれだけだ。元気でやれ」

 彼は。
 あっさりと。

 三人の脇を、通り過ぎた。

 まるで風のように。
 こんなにも、あっさりと。
 こんな、別れ――

「ビュウ!」
「隊長!」
「アニキ!」
 三人は、叫んで振り返った。

「振り返るな!」

 ビクリ、と。
 鋭い叱責に、彼らは、中途半端に振り返ったまま、身を竦ませた。

「振り返るな! 後戻りできる道はない! だから前だけを見て歩け! 死ぬ気になって働け! 絶対に!」

 ビュウは、振り返らない。

「絶対に、ここに戻ってくるな!」

 再び、ビュウは歩き出す。
 立ち止まらない。
 叱責も、助言も、もうない。

 あぁ、とトゥルースは思った。
 いつもそうだった。
 この人は、こうして、ある一線から決してこちらに踏み込ませないで――


 理解させてくれないのに。
 それでも、導いてくれていた。


 示し合わせないまま、三人は、しっかりとビュウに向き直った。
 そして揃って、城内へと去っていくビュウの背中に敬礼する。


 これが、三人の、最後の敬礼となった。





§






 午後一時過ぎ。客足が遠退き、店が僅かに平穏を取り戻す、一日で一番穏やかな時間。
 接客に追われていたビッケバッケは、フゥと息を吐いた。
 カウンターの奥から、声が聞こえる。
「ビッケバッケ、お疲れ様です。お茶を淹れたから、どうです?」
「うん、分かったよ、トゥルース。今行くね」
 はつらつと返して、紅茶の芳香漂う奥の休憩室へと向かう。入ると、伝票整理を一旦やめてお茶の用意をしていたトゥルースが、こちらも見ずに告げた。
「ラッシュから手紙が来てましたよ。親方と一緒に、十日後くらいには戻ってこられるそうです」
「ホント? 今回は随分長かったよね〜」
「それだけ、仕入れの交渉に熱が入った、という事でしょう」
「ラッシュ、また先方の人に怒鳴ってないと良いけど」
「大丈夫ですよ、親方もいますし」
 そして、二人は何となく黙る。
 それは、別に嫌な沈黙ではなかった。気だるい午後の、穏やかな休息の時。言葉はなくても、伝わるものは何となくある。
「……早いものですね」
「……うん」
「あれから、もう何年になったんでしょうね……」
 そして二人はどちらからともなく、すぐ傍にある窓の外を見た。

 空は、今日もよく晴れている。


 あれから、どれくらい経ったろうか。

 軍を辞めたビッケバッケたちは、反乱軍時代によく出入りしていた商人の元で働くようになった。その商人とはその当時から仲良くしていて、そもそも退役に踏み切れたのも、「もし軍を辞めたら、うちの店で働きませんか」というその商人の誘いがあったからに他ならない。
 元軍人が商人に転職、というのも難しい話である。何せ、勉強し直さなければいけない事が山ほどある。頭も要領も良いトゥルースはすぐに仕事を覚えたが、ラッシュやビッケバッケは慣れるまでに相当時間が掛かった。
 最終的に、物をズバズバと言えるラッシュは仕入れ取引を、トゥルースは経理を、ビッケバッケは接客を、それぞれ分担するようになった。
 色々と難しい事もあるが(特にラッシュ)、それなりにやれている。ビッケバッケが夢見ていた自分たちの家、三人で住む家は、この数年、脇目も振らずにがむしゃらに働いたから、間もなく手に入りそうである。取引先に徐々にひいきしてもらえるようになったラッシュは、いずれは世界中を股に掛けた貿易がしたい、と語っているし、トゥルースには自分たちの店を持つ、という目標が出来た。
 そうしたら、三人の家を店に改造しよう、とボンヤリとビッケバッケは思う。

 あれから、もう随分経った。

 世界は相変わらずきな臭く、自分たちがあれだけ必死になって得ようとした平和は常に脅かされている。グランベロスではいくつもの政権が乱立して政情不安が続き、その全てが軍備拡張を進めているという。カーナはそれを危惧し、それまで推し進めていたはずの軍縮を一時停止、予備役を再編する事が検討された、という。
 ビッケバッケたちも、予備役だったならば、きっと招集されていた事だろう。そうならなかったのは、あの日、ビュウが予備役からビッケバッケたちの名前を消してくれたからだった。
 ビュウの真意がどこにあったのか、ビッケバッケは未だ確実には言えない。だが彼は信じている。

 ビュウは……彼らの頼れるあの兄貴分は、きっと、去っていくビッケバッケたちがそれからの生活に専念できるように、ああしたのではないか、と。

 働かずに手に入ってしまう、月一万七千ピローの収入。それがあったなら、きっとこんな風に一生懸命働いていなかっただろう。
 軍の補充員である予備役。もしビュウが根回ししてくれていなかったら、ビッケバッケたちにはカーナ軍人として戦場に逆戻りする道が残されていたのだ。

 それらを、全てビュウが断ってくれた。将軍としての権力を濫用してまで。トゥルースに言わせれば、軍縮にかこつけて。


「アニキ……元気かな」
「元気ですよ、あの人は。殺しても死にそうにないじゃないですか」
「そうだよね」
 トゥルースの表現に、ビッケバッケは笑う。


 空は、どこまでも青い。
 かつて、あの空を、ビッケバッケたちは竜の背に乗って駆け巡った。
 この空の色を宿した瞳を持つ青年に導かれ、緋色の竜に守られて。
 今となっては、もう遠い日の出来事だけれど――


 彼と共に歩んだあの道は、今でも燦然と、ビッケバッケの中で輝いている。

 

 


 以上、アンソロ没ネタその一『舎弟トリオ退役編』でした。

 没理由――せっかくのアンソロの機会、ビュウフレ布教のために使わせていただこう。

 ネタを書き出した段階では、二分割するような長さではなかったはずなのに、気が付けば提出したネタ以上の長さに。何故?


 ちなみに。
 作中に登場した退役軍人周りの説明(予備役、年金など)は、割とウソが多めです。日本の自衛隊には予備役制度がないのでアメリカ軍のを参考にするしたのですが、もちろん、作中に出したようないい加減な制度じゃありません。退役と予備役は違うから、退役した軍人が予備役にそのまま編入されるようなおかしな事にはなっていません。そんな事したら、老齢で退役した軍人まで予備役に組み込まれてとんでもない事になります。ヨボヨボのお爺ちゃんばかりの軍隊なんて役に立ちませんよ。


 そんな感じで、三人の退役を、ビュウを含めた四つの視点で書いてみましたが――

 ビッケバッケの扱いが微妙なのはアレです、彼の書き方をいまいち掴みきれていないだけですごめんなさい。


 それにしても。
 軍人年金の月支給額一万ピロー(トゥルース)と書きましたが。
 実際、一ピローを日本円に換算すればいくらなのか。
 そうすれば、もう少しリアリティのある額を書けるのですが……。

 

 

 

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