削り取れ、独占市場!

 というわけで第六章『挑む心』、終了でございます。
 何だかんだと半年近くかけてしまった気がしますが、『告ぐ心』よりは早く終わらせられたよね、と自己満足に浸ってみる。でもそういう自己満足は、当初のペース(年二章完結)を取り戻してからにしろ、簾屋。大体ネタの考案(特に戦術の考案)から結局一年くらい掛けただろうに。
 さて、今回の後書きのネタは、これまででチラリチラリと話を出してきたのにまともに説明してこなかった気がする傭兵周りの話題でいきたいと思います。
 ただし、傭兵業界の構造だとかの話に終始すると過去編のネタがなくなる(またか)ので、ツンフトだとかフリーランスだとか、何故そんなややこしい設定にしたかという言い訳をば。
 特に興味のない方は、ブラウザ・バックないし下のリンクから目次に逃れたり、何となればAlt+F4でこの窓を閉じてしまいましょう。



 そもそものきっかけは、公式ノベライズを読んでいた時でした。

 「戦火はオレルスの空から消える事なく、人々はベロス傭兵を先を争って買い求め、ベロス王室もまた積極的に傭兵を売り込んだ。そしてついには争い合う敵どうしのどちらにも兵を輸出するようにさえなったのだ。」(高城響『バハムート ラグーン』P46)

 ……え? ただでさえろくすっぽ資源がないってのに、そういう、人材の浪費をしちゃうの?

 その違和感はあれから十年近く経ってからも消えず、結果として、『心〜』のベロス傭兵の設定に反映されました。

 まず、傭兵の元締めは国王であると思われるから、傭兵全体をある程度組織化していてもおかしくない。
 次に、元締めが王様である以上、国交を営業に使ってもおかしくない――ならば、王様は自分ところの傭兵を国軍に卸すはず。
 国益を考えれば、自分の所の資源(=傭兵)が必要以上に目減りする事は避けたいはず。なら、国軍の反対勢力である逆賊側には余り売り込みはしたくないだろう。

 以上の思考の筋道によって、ベロス傭兵は各国正規軍に派遣される傭兵と相成りました。
 でも、傭兵の口はもちろんそれだけじゃない。いや、正規軍以外の雇用の方が多いよね、つまり逆賊側。そっちの需要を満たすのは?
 ――こうして、ベロス傭兵とは異なる、組織に縛られない傭兵たちが設定の上で生まれました。
 さて、そこから始まる設定魔・簾屋の大暴走!

 じゃあいっそ、ベロス傭兵とそれ以外の傭兵の、業界シェアの争いを絡めてしまえ!

 ……そんなこんなで、『心〜』ではちょくちょく組織に縛られない傭兵たち、通称フリーランサーが登場します。彼らがビュウに雇われるという形を取っているとはいえ、グランベロスと進んで事を構えようとするのは、シェア争いの尾を未だ引きずっているからです。まぁ要するに、フリーランサーは散々ベロス傭兵に辛酸を舐めさせられているわけで。
 さて、フリーランサーはどんな風にベロス傭兵に辛酸を舐めさせられてきたのか。それは、過去編の方でじっくり語る事にします。と言っても、『心〜』の中でその片鱗を見せてきてはいますが。

 ちなみに、ベロス傭兵の通称として登場させている単語「ツンフト」は、ドイツ語です。Zunftと書きます。意味は「同業組合」、まぁ要するにギルドの事? そういえば、昔のネタ帳を引っ繰り返したら、初期の頃のベロス傭兵軍の通称はツンフトではなくロイヤル・ギルドでした。ロイヤル・ギルド、ってあんた、英語じゃん。そりゃドイツ語に直すっての。


 で、そんな感じで見切り発車をした傭兵周りの設定ですが――
 書き始める前、掻き集めた資料を読んでいたらビックリ仰天。

 わぁ、敵対する二つの勢力どちらにも売り込んだ事例があったのね!

 そもそもベロス傭兵のモデルが、バチカンの警護でも有名なスイス傭兵なのか、それともランツクネヒトと呼ばれるドイツ傭兵なのか、原作ゲーム中の少ない描写では何とも判断しがたいのですが――
 中世のスイス傭兵で、そういう事例があったらしい。
 戦場で敵の傭兵を倒したら、実は同じように傭兵をやっている弟だった、という話。
 元締めをやっていたスイス本国の当局が、当初の決まりを破って、目先の利益優先で敵対する二つの勢力に傭兵を売り込んだそうな。

 ……ベロスの王様も、そういう長期的展望が出来ない人だった、って設定にした方が、サウザーがクーデターを起こす理由に整合性が出たなぁ。
 まぁいいや、王属派遣軍の仕組みを作った王様(サウザーに殺された王様のご先祖)は長期的展望が出来る人だった、って事で。
 それに、国に喧嘩を売るような逆賊に、まとまった数の傭兵を雇えるだけの資金があるとも思えないし。


 そんなこんなで傭兵ですが、今回初めてちゃんと名前とキャラ設定のついた傭兵が登場しました。カイツ=ベクタとコルテ=ベクタ。
 ダフィラ編では、少ない戦力を補うために傭兵を出さなきゃいけない、と初めから決めていたので、ちゃんと名前をつけてやらねばと思っていたのですが――
 そんな時間はなかったので、一次創作の方のストックから登場していただきました。
 そうしたら大誤算。

 いけねぇ、簾屋の中でカイツとコルテの比重がやたらと大きくなってきてる! このままじゃ確実に主人公(=ビュウ)が喰われる! 特にカイツ、出すんじゃなかった! こいつを出したら確実にあいつら(一次創作の話なので、ここでは割愛)がオレルスにいる事になるじゃない! あいつら(一次創作の話なので以下略)が出てきたら、話のパワーバランスが一瞬で崩れる!

 簾屋が作中で登場させるオリジナルキャラは、二次創作のキャラとして設定しています。だから、作品世界の枠から外れるような事はほとんどありません。
 が、カイツとコルテは一次創作のキャラ。私のオリジナルの作品世界から、『バハムートラグーン』という作品世界に越境させたわけです。だからまぁ、ビュウさんも喰われそうになりますわな。一次創作のキャラは自分が一から生み出した、文字通りの我が子ですから。ひいきしたくなるのですよ、親馬鹿なので。
 ってなわけで、カイツとコルテの背景設定はおっそろしいくらいに膨大です。多分、『心〜』の設定以上です。例えば、カイツとコルテが同じ姓を名乗っているのは何故なのか、とか。八話でカイツが口にした「うちの頭領」とは何者なのか、とか。
 しかし、その辺りを『心〜』に介入させようとしたら、簾屋の事ですから、ストーリーの重心が移動しかねません。それじゃ何のためのバハラグ二次創作だよ、ってわけで、こいつらが本格的に話に関わってくる事は多分ないでしょう。
 作中でのカイツたちの扱いがちょっと中途半端なのは、以上のような理由です。でも、カイツ自身は過去編にまた登場します。その時には、カイツやコルテ以外のベクタも登場するかもしれません。話のパワーバランスを崩さないように注意しよっと


 で、オリキャラといえばもう二人。うっかりカイツとコルテの事ばっかり語ってしまいましたが、作中の重要度でいえばこっちの方が上。
 一人は、ラス・リオネル=ハルファー。パルの副官として今回初登場。副官なんだから、もっと早く登場させておけば良かった――というか、後々の展開を考えて副官の必要性に気付き、慌ててひねり出しました。カーナ編やグランベロス編で活躍してくれる事でしょう。でもこのキャラで思い通りの活躍をしてくれるのか、ちと不安。
 もう一人、名前しか出てこなかった故人、エオシュア=ハイフェーツ。ビュウさんが抱えている謎の資産の、元々の持ち主。この人は過去編の重要人物なので、そちらに譲ります。
 これで、『心〜』で登場する重要なオリキャラは出きったかなー、と思います。後は過去編で何人か、というところ? いやぁ、オリキャラ出しすぎてキャラクター付けが辛くなってきました。また一次創作からストック持ってこようかしら(それはやめろ)。



 ともあれ、ダフィラ編は終了。原作ゲームにおいてはこの辺りが中盤の山でしょうか。次はついにカーナ編。やる事が色々多いので、次回も十話編成でいくかもしれません。
 そして、次回はオリキャラのあの人を登場させます。
 今回あんな事になってしまったビュウフレも含めて、今後どうなってしまうのか――実は作者もよく分かっていないので、一緒に楽しみましょう(おい)。


 最後に、『挑む心』で使用した背景画像は、『トリスの市場』様からお借りしました。



 では、ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。





 参考文献
 菊池良生『傭兵の二千年史』、講談社新書、2002
 ティム・ニューアーク『迷彩デザインーカモフラージュ・ブック』、ワールドフォトプレス、2004
『最新!戦闘兵装&装備PERFECT BOOK』、宝島社、2005

 

 

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