こんな夢を見た。



 彼は私を抱いていた。
 私は離れた所から、それを見ていた。

 彼の抱く私はとても綺麗だ。
 キラキラと輝き、光さえ放っている。
 彼に嫣然と微笑んで、喜びに声を擦れさせる。
 肌は白く、髪は陽光を宿して輝き、瞳は若葉色に煌めいて揺れている。


 でもそれは人形。
 本当の私は、ここにいる。


 彼は気付いていないようだ。本当の私が、どれほど醜く汚く穢れているか。
 輝いてみせた事もなければ、喜びを真っ正直にまっすぐに表わした事もない。
 肌はくすみ、ひび割れ、髪は脂でベトつき鈍い黄土色に変わってしまっている。
 そして何より、この手。
 この手はいつの頃からかすっかり血塗れだった。
 手を見下ろした。赤い。だが、赤だけではない。黒や褐色が基層を成し、洗っても洗っても何度水にくぐらせても決してこの色は取れる事はないだろう。それは私にとって罪の色だった。私は、そう、人殺しだ。私を抱く愛しい彼よりも、私の大切な騎士よりも。


 私は口を開く。私の紡ぐ言葉は、人形の口から響いて彼に届く。


 ――ねぇ、貴方、私は柔らかい?

 ――あぁ、柔らかいよ。

 ――ねぇ、私は温かい?

 ――あぁ、温かいよ。

 ――ねぇ、貴方。


 人形の私は笑う。本当の私は影に沈む無表情のまま、問うた。


 ――私の事、好き?

 ――あぁ、愛しているよ。

 ――私も……――


 あぁ。


 ――……私も、愛しているわ。


 私たちは、こんなに抱き合って、こんなに愛し合って。
 だというのに、何て遠い。


 美しい人形の私は笑っていた。
 醜い本当の私は泣いていた。

 

 

 

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