こんな夢を見た。 私は空を飛んでいた。青い空を、己の意思のまま、自在に飛んでいた。 私は風だった。 空は青かった。どこまでも限りなく青かった。遠くに浮島の影が青く霞む、そこは無限に続く青の世界だった。青色だけがそこにあり、青色こそがそこの支配者だった。 私はその中を飛んでいた。どこまでも飛んでいけた。私の心は悦びに満ちた。 私もまたこの青の世界の支配者だった。いや、私自身がこの空だった。今や私は空と一つだった。 空を駆け巡った。世界のあらゆるところを飛んだ。遥か空の頂へ、遥か空の底へ、私はくまなく駆け巡った。 空には無数の浮島がある。私はその全てを見た。しかし私にとって、そこに住まう人々などどうでも良かった。空を飛ぶ術を持たない彼らと私は隔絶されていた。 私は孤独だった。 私の事など、誰も意に介さない。誰も私に気付かない。彼らは自らの寄る辺たる薄い大地に目を落とし、日々の暮らしのあくせくするばかり。空を見上げ、私を見る者など誰もいない。 私はどうしようもないほどに、孤独だった。 誰かに気付いてほしくなった。大地に降り立ちたくなった。しかし私は空で、空は私だった。私は空から離れられない。どこまで言っても変わる事のない孤独に私は涙した。 その時、ある大地の上を差し掛かった。 ところどころ白い花の混じる緑の絨毯の上に、一人の娘がいる。 彼女は空を見上げた。 彼女は私を見た。 私も彼女を見た。 私は見た。 彼女の目が、この空と同じ青をしている事に。 この空を宿している事に。 そして彼女は微笑んだ。 私に、微笑んだ。 気付いてもらえた。 彼女は両手を広げた。私に向けて。 私はそこに飛び込んでいった。彼女を抱擁するように、彼女に抱擁されるように。 そうして私は人になった。 |