こんな夢を見た。



 私は膝を抱えて座っている。場所はどこかの森の中。寒い。震えている。ガチガチと歯が鳴る。
 私は一人だった。周りには誰もいない。日の光もろくに届かない森のど真ん中で、たった一人、ボロボロの戦闘服を纏ったボロボロの体を丸く縮ませている。
 どうやら、戦闘中に一人はぐれたらしい。戦竜の気配も感じられないほど、皆と離れてしまっている。何と間抜けな。私は膝を抱えて震えたまま呆れ混じりの息を吐いた。

 その時だった。

 ガサリ、とすぐ側の茂みが鳴った。
 私はそちらにパッと目を向けた。
 私の左手側の茂みがガサゴソと音を立てて揺れている。刃こぼれの酷い剣の柄を握り締め、そちらに注意を向けて放さない。
 そして。
 その茂みから。

 蛇が一匹。

 私は目を丸くした。

 奇妙な蛇だった。色が茶色なわけでも斑点があるわけでもない。むしろ、様々な色を持っていた。鮮やかな翡翠色、目の覚める青、銀色にも見える灰色、緑がかった砂色、宵闇のような暗い紫、そして、漆黒。
 蛇の大きさもまた、奇妙だった。大きい。やたらと大きい。こちらへと這い寄り、ふと鎌首をもたげたその高さは、剣を握って茂みへと身を乗り出した私の頭の高さとほとんど変わりない。私と蛇は、ほとんど姿勢を変えずに、互いの目を覗き込んでいた。
 それから、不意に、声が聞こえた。


 ――助けが欲しいか?


 眼前の蛇の声だ、と私は直感した。


 ――助けが欲しいか? 生きたいか? 仲間に再びまみえたいか?


 私はただ蛇を見つめている。


 ――ならば声高にそう叫べ。我が全てを叶えてやろう。


 蛇は、まるで胸を張るように鎌首を軽く後ろに反らせた。私の返答を待っているようだ。
 沈黙。別に、蛇が私に言葉を掛けた事を驚いているわけではない。それも驚いていたし、蛇の言葉について考えてもいたが、やはり別の事を考えていた。


 ――食えるかな。


 ビクリッ、と蛇が身じろぎした。
 知らず内に、私は算段をブツブツと口にしていた。


 ――口を開けられないように喉元を持てば、噛まれる心配はない。その後、剣を噛ませて上顎と下顎を切り離すように一気に捌く。もちろん牙と毒腺は取り除く。皮も剥いで……珍しい鱗だな。高く売れるかな。あぁ、そうだ、火を起こすから薪と、あと、串代わりに何か枝を……。


 そこで私は言葉を切った。
 蛇が、私に恐れをなしたかのようにクルリと元来た茂みに鎌首を戻し、そそくさとそちらへと信じられないほどの速度で這いずっていったからだ。
 私はカッと目を見開いた。
 剣を振り上げた。


 ――待てコラ昼飯ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!

 ――ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 ――俺を助けるつもりならおとなしく食われろコラぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!


 そして私もまた、茂みへと頭から突っ込んだ。

 

 

 

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