こんな夢を見た。 私は庭に出ていた。太陽は眩しいくらいに燦々と輝き、緩やかに大気を温(ぬる)ませていた。 惜しげもなく降り注がれる光。しかし私の庭は、その光には相応しくないほどの荒れようを見せていた。 伸び放題の雑草。 四方八方に枝が伸びた庭木。 茶色く枯れてしまった花の苗。 開く事なくしぼんでしまった無数の蕾。 ところどころ這い回る蛇やトカゲやサソリ。 うんざりした私は、ふと、隣の庭を見た。 生垣を隔てて広がる隣家の庭は、それはそれは見事なものだった。 刈り込まれた青い芝生。 見事に整えられた庭木。 咲き乱れる色とりどりの花。 まだ開かない蕾は豊かに膨らみ、フワリと開く日を今か今かと待っているよう。 もちろん、おかしな害虫や害獣は居はしない。 生垣一つを隔てただけで、この差。私は愕然とする。 そしてそんな私の目に、向こうの方で動く人影が留まった。 剪定に動くその影の背は低い。子供のようだ。動く度に、収まりの悪い黒髪が揺れた。 私は直感した。彼は庭師だ。隣の庭の。それにしても、何と見事な腕だろう。彼のおかげで、隣の庭は余りにも美しく輝いている。荒れた私の庭が、更に荒廃して見えるほどに。彼のために、彼の庭の薔薇は、今、恥らうように、誇るようにその蕾を解いた。 彼がいれば、私の庭もあのように美しく整えられるだろう。そう思って、私は声を掛けた。彼は私を振り向いた。 ――私の庭も、整えてはくださいませんか? 強い陽の光で、彼の顔は影に隠れて表情がよく見えない。しかしそれでも、私を諭すように薄く笑んだのは、判った。 彼は、かぶりを振った。 ――駄目です。 ――何故? ――そこは、僕の庭ではないからです。この庭は僕の庭で、僕はここの庭師。そして、そこは貴女の庭で。 と。 彼は、私に手を差し伸べた。いや、それは私を指し示すものだった。 ――その庭の庭師は、貴女だ。 私もかぶりを振った。 ――嫌です。私は庭師になりたくないのです。貴方に来てほしいのです。 ――出来ません。僕はこの庭だけで手一杯なのです。この庭の庭師ですから。 そう言うと、彼は再び剪定をすべく私に背を向けた。 その背中に、私は寂しいやら腹立たしいやら、とにかく色々なものを感じた。 そして腹立ち紛れに、這いずり回っていた蛇を掴むと、私の庭の外へと投げ出してやった。 |