こんな夢を見た。 私は十を少し過ぎたばかりの子供だった。同じ年代の子供たちと一緒に、狭苦しい部屋にいた。そこは教室で、私は生徒だった。 生徒は私の他に二十人ばかりいた。その二十人は、てんでバラバラに好き勝手な事をしていた。お喋りをする者、内職をする者、窓の外をボンヤリと眺める者、席を立ってじゃれ合う者、様々だった。とても授業どころの騒ぎではなかった。 教壇には教師がいた。教師は、しかしこの教室の騒ぎを全く意に介さず、こちらを見ているのか見ていないのか、ただボケッとしている。授業をしようとすらしていない。 その内に、じゃれ合っていた者たちが何かの拍子に喧嘩を始めた。口論はすぐに掴み合いとなり、瞬く間に殴り合いへと変じる。 誰かが叫んだ。教師に仲裁を求めた。皆知っていた。喧嘩をしている者たちさえ。教師が一言「やめろ」と言えば、喧嘩はすぐにでも納まる、と。 しかし教師はその声を聞かなかった。 喧嘩はますますエスカレートしていく。血が飛んだ。興奮した者たちが殴り合いの輪を広げた。教室の一部で始まった喧嘩は、気が付けばその半分を自らの場として繰り広げている。 私は教師を見た。教師はまだ何もしようとしない。ただボンヤリと、興味があるのかないのか、よく判らない目で教室の様相を見つめている。 教師の仲裁を求める声はまた響く。 しかし彼は聞かない。聞こえていないかのように。 彼に声は届かない。何故なら、彼は聞いていないから。 彼の目には何も映らない。何故なら、彼は見ていないから。 けれどそのくせ、彼は嫉妬深い。彼を求める者たちの声は無視するくせして、教室の側を通り過ぎた他の教師を興味深そうに見つめる生徒に対しては、これでもかとばかりに叱責する。 そうか、と私は思った。 彼には、何もする気がないのだ。 教える気も、叱る気も、助ける気も。 理解した私は、席から立った。 それから物騒な喧騒へと向き直ると、まずは喧嘩していた張本人であるところの二人をぶん殴ろうと、決めた。 |