こんな夢を見た。



 そこはひたすらに闇だった。
 闇はどこまでも続いている。ただ暗く、どこまでも暗く、そして果てしなく重かった。
 私はその闇の中にいた。空虚に広がる息の詰まるような闇の中で、私は歩いていた。
 歩く道は白かった。一筋の光明もないこの闇の中で、その道は、まるで闇の支配から完全に脱しているとでも言わんばかりに、ぼんやりとほのかに白く、輝くように浮かんでいた。

 ペキリ。
 ペキリ。
 ペキリ。

 足を一歩、一歩と踏み出すごとに、軽く乾いた音が響く。

 ペキリ。
 ペキリ。

 まるで、道に落ちた小枝を踏むような。
 そんな音と、感触。

 ペキリ。
 ペキリ。
 ペキリ。

 白い、道。
 砂利が敷き詰められた、白い道。
 いや、それは砂利ではない。砂利よりももっと大きな物が敷き詰められている。いや、敷き詰められているのではない。それこそが道を成しているのだ。


 人骨。


 私は、人の骨を踏みしだきながら、どこへともなく歩き続けていた。

 ペキリ。
 ペキリ。

 私の足は既に重く、膝は既に痛く、背中は既に強張り、肩は既に張り、全身が悲鳴を上げている。
 それでも歩き続ける。ただ、ひたすらに。

 ペキリ。
 ペキリ。

 それこそが贖罪の証とでもいうかのように。

 ペキリ。
 ペキリ。

 どこまでも。
 どこまでも、歩く。
 私が直接的に、間接的に殺してきた者たちの骨を踏み砕きながら。

 ペキリ。
 ペキリ。

 かつてと同じく、多くの者を踏み台にしながら。

 ペキリ。
 ペキリ。

 その全てが徒労であったと、嘆き、後悔するまで。

 ペキリ。
 ペキリ。
 ペキリ――


 そして道の半ば私は立ち止まる。
 闇の中に浮かぶ白の道で、鈍く輝く何かを見つけた。私は歩み寄ってしゃがみ込むと、それを拾い上げる。

 一振りの剣だった。

 よく使い込まれた剣だった。滑り止めの皮が巻かれた柄は持ち主の拳に合うように変形し、それ以外の者が振るうのを決定的に拒んでいる。刀身の刃こぼれは酷く、かつては鏡のごとく人の顔さえ映し出していたであろうその刃は、白く曇っていた。
 その曇りの正体が人の脂である事は、容易に知れた。
 その剣には見覚えがあった。拾い上げる前、剣の柄に添えられていた白骨の手を見下ろす。その手が繋がる肩を、首を、顔を見る。
 頭蓋骨。

 眼球のない目が、私を見た。

 ――どうだ。これがお前の望んだ道だ。

 ――そう。

 ――中々洒落ているだろう?

 ――そうね。

 ――俺も踏み越えていくか?

 私は立ち上がる。
 そして何の躊躇いもなく、その頭蓋骨を踏み砕いた。

 ――もちろんだわ。だって。

 剣をその場に放り捨て、私は再び歩き出す。


 ――悔いて立ち止まったら、貴方に失礼でしょう?


 ペキリ。
 ペキリ。

 私はどこまでも、歩いていった。

 

 

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