こんな夢を見た。



 視界いっぱいに、一面の青が広がっていた。
 青。蒼。碧。その色は果てなく続いていた。どこまでも高く、吸い込まれるほどに澄んでいて、だというのにその色は決して単一ではない。


 青。
 蒼。
 碧。


 それを見上げて、私は座っていた。
 手を後ろに突き、力なく胡坐を掻いて。


 青。
 蒼。
 碧――


 あぁ、と私は嘆息した。
 これは空の色だ。
 真昼の蒼青と、黄昏の紺碧とを同時に宿した、高く抜けるような蒼穹の色。
 雲に彩られる事なく、太陽に照らされる事なく、月に翳る事なく、星に瞬かれる事なく、ただただ青い、それはこの空そのものの色。


 ここは。
 ここは。
 ここは?



 ――地獄よ。

 声。
 聞き覚えのある声。しかし誰の声だか思い出せない。
 私はふと足の辺りに重さを覚えた。見下ろす。胡坐を掻いた膝の上に、目に痛い金色があった。
 金色の、髪。

 ところどころ、赤く染まった。

 その赤は、血。


 髪の下に垣間見える白い肌は血塗れ。
 ポタリ、とその白に赤色が滴り落ちる。血。血。血。
 後ろに突いていた手を顔にやる。指にヌルリとした感触。血。血。血。口から血。ジワリ、と左肩から脇腹に掛けて生温い感触が走る。そこに触れる。血。血。血。

 ――あぁ、そうか。

 私は、感情なく呟いた。

 ――俺は、死んだのか。

 ――えぇ、そうよ。

 膝の上の金髪の娘が、答えた。

 ――貴方は、死んだの。

 その面が、上を向いた。
 私を、まっすぐに見据えた。

 生気を失くしてドロリと澱んだ眼は無残にも見開かれ血走り恨みも怒りも憎しみも嘆きも悲しみも何一つとして浮かばせないまま虚ろに私を刺し貫く。



 ――どうして、守ってくれなかったの?




 その眼は余りにも澱んでいたから、緑色をしていたのか空色をしていたのか、まるで判らなかったのだ。

 

 

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