それは、とても、とても穏やかな午後。
 まだ春浅いのに空気は柔らかく温み、外にいてもそれほど凍えない、そんな陽気のいつもの午後。
 とある城のとある庭で、とある恋人たちが額を突き合わせて密談に勤しんでいたのは、そんな午後。

「親への挨拶オッケー、会場の確保オッケー、衣装の予約オッケー……となると、差し迫った問題は」
「披露宴の席順、ね……」
「えーと、確か基本は世話になった人が上座で親族が下座、だったかな?」
「じゃあ、ビュウの側の上座はマテライト殿で決定ね、まずは」
「フレデリカの方は……センダック、か」
「――ビュウ、何でそんな嫌そうな顔をするのよ?」
「……それを聞くか、俺に?」

 渋面を見せた彼に、彼女もつられて渋面を作った。それからついと視線を逸らしたのは、彼女なりの優しさというか、二人がその人物に対して共通に抱いている気まずさというか、二人がその人物に対して共通に抱いている色々な――そう、本当に色々な思い出にまつわる何とも言えない苦々しさによるわけで。
 それでは話が進まないから、彼女は無理矢理話の方向を修正した。

「そ、それで、センダック老師も上座に来ていただくとして……――ねぇ、ビュウ?」
「ん?」
「ヨヨ様は? 当然上座に座っていただくんでしょう?」
「いや、あいつは出席しない、って」
「え?」

 彼女は耳を疑った。
 彼にとって、その名を持つ女性は、彼女とはまた違った意味合いで大切な女性だった。そしてかの女性にとっても、彼はとても大切で、彼に訪れた幸福を我が事のように喜んでいた。幸せに、と彼女自身に言ってくれたのだ。
 それなのに、かの女性は出席しない?

「何で? 何でヨヨ様……――」

 やっぱり、という思いが彼女を支配した。やっぱり、本心では祝福してくれていないのでは、妬まれているのでは、と。

「あー、何でも」

 そんな彼女の思いを知ってか知らずか。
 説明する彼の声は、この陽気のように、どこまでも呑気。

「『今更、見届けるまでもない』ってさ」
「……え?」
「まったく、今まで人に散々迷惑掛けといて……披露宴でのスピーチ一つなし、って、いい根性してると思わないか?」

 と。
 彼は、妙におかしそうに笑った。
 無理矢理作ったおかしさの隙間から、そこはかとない寂しさが透けて見えるようだった。

「……何、馬鹿な事言ってるの」

 吐息を一つ。
 強張った表情をほぐして、しょうもない、とばかりに笑った。
 かの女性の気遣いが目に見えるようだ。自分が出席する事で、要らぬ気遣いをこちらにさせてはならない、という。
 それこそ要らぬ気遣いだというのに。

「どうせ、ヨヨ様からご祝儀は貰うんでしょ?」
「そりゃもうたくさん」

 と、顔を見合わせて、二人は声を上げて笑った。

「それじゃ、最初に出来た子供の名付け親はヨヨ様にお願いしないと」

 そこで彼が微妙な顔をしたのを、彼女は気付かないふりをした。
 哀しいような切ないような、しかしその未来に心躍らせるような、そんな複雑で微妙な微笑。

 ……彼女の心臓が弱いのを、彼は知っている。
 もしかしたら、出産には堪えられないかもしれない、という事も、彼は知っている。
 だから、

「――……そうだな」

 彼はそう相槌を打ち。
 彼女はそれでその話題を切り上げた。

 そして再び始まる披露宴の席次表作りに、二人はウンウン頭を悩ませたとかそうでないとか。










未来予想図2

 

 


 かつて掲示板の保守用に投下した即興SS。かれこれ三年以上前の代物。せっかくなので加筆訂正の後、復活させました。
 タイトルが妙な位置にあったり、簾屋のSSにしては短かったり(多分これが世間一般のSSの適性分量)、ちょっと文体が古かったりする(え、余り変わらない?)のは、それ故なのでご容赦ください。
 まったくの余談ですが、本当はこいつは新春特別企画ダウンロードフリーSSとしてUpする予定でした。でもそうしませんでした。何故か? まぁ何ですか、突貫作業の果てに力尽きて特別企画部屋まで作れず、加えて「わざわざ企画部屋を作っても専用SSが二本だけってのもなー」と足踏みしたせいです。せめてもう一本か二本書けていれば、新春特別企画部屋として立ち上げているはずでした。突貫作業に限界を感じた、年明け一日目。

 何もかも終わった後は、結婚式やら何やらの打ち合わせで頭を悩ませればいいと思うよ。
 でもそれ以前に、『心〜』の方であんな展開にしちゃったから、うちのビュウさん本当にこのSSのビュウさんみたいになれるかどうかが甚だしく不安だよ!

 

 

開架へ