あの人は、今日も、空をまっすぐに見つめている。 凛々しい横顔。 スラリとした立ち姿。 青みを帯びた瞳は、どこか険しさを宿し、この広大な碧落の彼方へと向けられていた。 あぁ、と吐息する。 一体彼は、どこを見ているのだろう。 この空の果てに、一体何を見ているのだろう。 まるで何かを懐かしむような、その憂いを含んだ眼差し……―― 何かを、懐かしむ。 私はハッと息を飲んだ。 あれは、誰かに想いを馳せている目だ。 遠く離れた、本当は離れたくなかった誰かの事を想っている、あれはそんな眼差しだ。 一体、それは誰? もしかして。 もしかして。 もしかして……―――― 別れてしまった恋人? そんな人が、彼にいたのだろうか? いや、いたのだろう。それくらいいて当然だ。何故なら彼は、余りに魅力的だ。放っておかないのは自分だけではないはず。 あぁ、だが、けれど。 それは一体どんな人なのだろう。 彼に、かつて愛された人。一体どんな女性なのだろう。 知りたい。とても知りたい。どんな出会いをしたのか、どんな風に想いを告げあったのか、どんな風に愛し合ったのか、そして……――どんな風に、別れたのか。 知りたい。 知りたい。 知りたい。 そんな渇望に、私は慌ててかぶりを振った。 違う。そうではない。 彼のかつての恋人がどんな人だったか、ではない。大切なのは、どうすれば自分に振り向いてくれるか、だ。 かつての恋人の想いを断ち切って、どうすれば、私に。 その方法は……あぁ、駄目だ。思いつかない。 でも、と私は思い、再び彼へと視線を向けた。 (どうか、どうか待っていて) この、切なる願いが彼に届きますように。 (私が必ず、貴方を、過去から解き放ってみせますから――) §
|
妄想大暴走! 誰のが、って、エカテリーナ嬢のが、ですよ。 エカテリーナ嬢は、割と脳内で物事を完結させてしまうようなキャラだと思います。 そんな彼女の片思い。 気を付けろ、ホーネット! 君は常に狙われているぞ!(色んな意味で) |