「ルキアって、やっぱり大人よねぇー」 そう言われる度に。 「そう?」 疲れている自分がいる。 はぁっ、と。 バーに置かれたテーブルの一つに突っ伏して、ルキアは盛大に溜め息を吐いた。今バーにはルキアの他に誰もいない事が幸いだ。 気だるい昼過ぎはこれと言ってする事もなく、しかしタイミングの悪い事に他の女の子たちは何かしらの用で部屋を出払っている。ゾラはいつものようにヨヨの世話だし、メロディアは甲板の方でプチデビルとじゃれていた。ジャンヌはラッシュたちの訓練に付き合っているらしいし、アナスタシアはエカテリーナを引き連れてどこかに行ってしまった。 つまり、暇だ。 向こうの大部屋に戻れば、人はいる。フレデリカとかミストとか。だが、いちいち行って雑談に興じようという気力が、今はない。 (まったく、何なのかしら……) いや、解っている。この無気力感の――と言うか、疲労の原因が何なのか。 だが解っていたところでどうしようもないのもまた事実。 何故なら、その根本の原因が。 自分が、この反乱軍の女性兵の中では年長者に当たる、というその一点に尽きるから。 ルキアは今、二十五歳だ。 戦闘に出る女性陣に限定すれば、ゾラ、ミストに次ぐ歳。同い年のジャンヌを除外して、他の子たちは皆、ルキアより歳下である。 そうすると、当然の事として発生する事態。 大抵の女の子は、ゾラやミストではなくルキアを頼ってくる。 その気持ちも解る。ゾラはヨヨの看病で忙しいし、ゴドランドで合流したミストは大抵ベッドに臥せっていて相談を聞いてくれるような雰囲気ではない。ジャンヌは悩み相談が出来るような気質ではないから、自然と、そういうものは気さくで聞き上手なルキアに回ってくる。 綺麗で、話を聞いてくれて、落ち着いていて、頼りになる大人の女。 違う。私は、そんなものじゃない。 本当はそんなものとは程遠い。戦場に出れば血まみれで、綺麗なんてものではない。いつも話を聞いているけれど、本当は自分だって誰かに話を聞いてもらいたい。落ち着いて? マハール戦役の折に、敗色も濃くなってきたというだけで無駄に取り乱して、ろくに働けもしなかった軍人が、本当に落ち着いている? あのタイチョーの細君は、女の身でありながら、僅かな部下と共に夫を初めとする残党が撤退する時間を稼いだというのに。それに比べて、自分は何も出来なかった。祖国が滅び行く中、何も出来なかった。そして今でもその事をウジウジ悔いて、思考は行ったり来たりの袋小路。 そんな女が、綺麗? 落ち着いて? 頼りになる? 違う。私はそんなんじゃない。本当の私は―― 「……何だっけ」 ルキアは、呆然と呟いた。 反乱軍に合流してから、これまで。歳若い女の子たちは祖国を追われたショックに耐え切れず、いつも悩み、苦しんでいた。 年長者のルキアは、自然と彼女たちの「姉」を演じていた。自分は歳上だから。そんな、どうでもいい事を支えにして。 だが。 そうなる前の自分は、どんなだった? 長い事「姉」を演じてきて、本来の自分が消えてしまった。 素の自分。 それは、どんな女だった? そう、ルキアが途方に暮れた時。 明るい――余りにも底抜けに明るい声が、バーに響き渡った。 「やぁ、ルキア! 君は今日もチャーミングだねぇ!」 直後、ルキアは更に酷い疲労感を覚えた。 |
ちなみにお題、間違ってません。 そして続きます。 次回は『20.大人の女』。 二つを合わせて一つなので、解説はまとめてそちらへ。 |