『12』を走り終えて



 一年間で十二本。
 言うのは簡単ですが、実際やるのは中々どうして難しい。
 一月一本、新作小説を書き下ろす。もちろん長短の制限はなく、何となれば、本当にコントのようなネタ文章でも(それがバハラグであるならば)主催のとろろ様は許してくださった事でしょう。
 けれど変なところで職人気質の簾屋の物書き脳がそれを許さなかった!
 小説担当の他のお二人(玉露様とcorvus_c様)が反乱軍と帝国軍でそれぞれ十二本書かれるなら、簾屋は両方取り混ぜ、かつそれぞれのジョブに+神竜と戦竜で、十二本書こう! ――などという厄介な目標を立ててしまった。
 が、どうしてもネタが浮かばず、締切ギリギリになってやっと一本でっち上げる!
「あー今回は難産だった。よし、次からはもっと早めに取り組むぞー」――そしてやっぱりネタが浮かばず以下ループ! 先生、阿呆がここにいます!
 それでも締切破らなかった自分偉い、と自分で自分を誉めて、馬鹿な暴露話は各小説に話題を移す事にします。


○二月期小説:『神竜鍋会議』


 メインは神竜ズ。
 何故神竜か?
 何故鍋か?
 何故おこたか?
 何故ならそれは、思いついた「カメラ(=こちら)に背を向け、背中を丸めて額を寄せ合って、鍋をつつく神竜ズ」の絵柄がちょっと面白かったから。
 では、何故ヒューベリオンだけヒューベリチンなのか? いいじゃんヒューベリチン。猫だよ猫、可愛いじゃん猫。


○三月期小説:『何でもない日の事』


 メインはビュウフレ――に見せかけて、一応戦竜だったらしい。でも戦竜が余り出張っていないのがどうしようもない。
 とりあえず、戦竜にベロベロ舐められるビュウさんが書きたかった記憶がある。可能なら書き直ししたいSSの一つ。


○四月期作品:『中間管理職はつらいよ』


 全ジョブをメインに書くなら、そのジョブのキャラもちゃんと書こう――という事で、ジョブのトップバッターはランサーズ。遠くまでヤリヤリのカルテットです。
 何故こいつらがトップバッターだったか? いきなりプリーストやウィザードなど、やりやすいところに行くのもあれだったから、という記憶がおぼろげにある。
 個人的には二枚目半のドンファンを書けて楽しかったが、これを書いた時に区別が付くようになったレーヴェとフルンゼは、2009年9月現在、またどっちがどっちか判らなくなりました。


○五月期作品:『軽装歩兵の優雅な憂鬱』

『中間管理職〜』を書いた時にこうすると決めていたのかどうか、今となっては定かではないけれど、同SSの裏作品。メインはライトアーマー。
 書いてて楽しかったのはミスト姐さん。化粧水ビタビタビタビタと、ラスト近くのジャンヌ「たるまない?」が書きたかったから書いた小説、とも言う。
 でも実際、寝てばっかりだとたるむと思うんですよ、ミストさん。


○六月期作品:『御前会議は今日も大変』

 メインは打って変わって帝国将軍の皆様、略して帝国ズ。
 この小説、実はサルベージ作品でした。
 作中、サウザーがブランデーをグラスを余裕綽々で揺らして、パルに殴られるシーンがあります。あれは元々、『心、この厭わしきもの』第六章『挑む心』の第五話、パルパレオスと副官のリオネルがサウザーを呼びに行って居室の扉を開いて――その直後に入るシーンでした。
 簾屋が今まで書いてきた中でも屈指のコメディシーンだったのですが、さすがに作中の空気がおかしくなるので削除、後お蔵入り。せっかくなので『12』で復活させました。
 それにしても、うちのパルはその内に本当に禿げると思う。主にストレスで。


○七月期作品:『地下二階倉庫の怪』

 夏だ→怪談だ、という安直な連想の下書いた話。メインはアサシンコンビ。
 一生懸命「意味が解らず理不尽に怖い怪談」を書いてみたのだが、余り成功していない気がする。
 そして書いてて一番苦労し、また、割りと楽しかったのがファーレンハイトの地下階の構造と言うから、何かもう色々間違ってる。


○八月期作品:『彼女たちの福音』

 満を持してプリースト! でもカップリング要素ほとんどなし!
「プリーストが活躍する場と言えば?」「アンデッド狩り!」――というわけでディジーザー戦。ディジーザーの構造に苦しみ、回復魔法でアンデッドがダメージを受ける理屈をでっち上げる、そんな事に苦労したあの夏の日々。


○九月期作品:『チビ死神の踊る夜』

 十月期作品に備えて、プチデビをメインに据えてみた。
 でも、マニョとモニョだけだけどね!
 どうも簾屋はプチデビに妙な夢を持っているらしい。
 夢を見すぎて、プチデビは実は○○よりも×に近い存在で、それ故に△△△△の真実に誰よりも近い、とか何とかどうしようもないアイタタな設定があったりなかったり。
 プチデビについてはまたじっくり書きたいところ。ビュウさんと絡めて。


○十月期作品:『来たりて謳うはメメント・モリ』

 とろろ様にわがままを言って、十月三十一日にUpしてもらったという曰くつき(?)の中編。メインはウィザード、ネタはまんまハロウィン。
 実はこの話、元々のプロットはかなり前からありました。
 今は閉鎖されてしまった、バハラグ50の質問の配布元であったKURO−T様のサイト『−YAMATO−』、そちらで二〇〇四年の十月頃にビュウ隊長祭りが開催され、一時この『〜メメント・モリ』の元ネタとなった話を書いて寄贈しようか、と画策しておりました。
 が、余り長すぎるのも先方に迷惑だし、そもそも他人様の企画でオリジナル設定満載ってどうよ!? と脳内検閲が駄目出しをし、お蔵入りに。
 そのネタの、オリジナル要素をひたすら抜いて『12』用に仕上げたのが、この『来たりて謳うはメメント・モリ』でした。
 で、元のネタがどんなだったか、って言うと――

 傭兵をやっていた少年時代、ビュウはゴドランドである婦人から「いなくなった息子を見つけてほしい」という依頼を受けた。が、その依頼を完遂する事は出来なかった。
 月日は経ち、反乱軍としてゴドランドを訪れたビュウ。折りしもハロウィン、彼の脳裏に少年の日に受け、完遂できなかった以来の事がよぎり――ふと気付けば、彼はゴドランドではない見知らぬ街にいた。人気のない廃墟の街。仲間や戦竜を探して歩く彼の前に現われたのは――あの日、依頼を完遂するためにハロウィンに沸くゴドランド市を走り回っていた少年の自分だった!
 少年のビュウは、目の前の青年が十数年後の自分である事に気付かず、また、青年のビュウもそれを隠す。特に少年ビュウが嫌がりながらも二人は協力し、自分たちの身に起こった変事が何なのかを突き止める。
 二人が迷い込んでしまったのは、時間の交差点とも言える『今ではない場所』。ゴドランドという魔力を溜め込んだ街にハロウィンという日の特性が重なり、「あちら側」への道が開いてしまったのだ。そして現われる死者の魂――それは『道』を通り、現在の、そして過去のゴドランドへと溢れ出す!
 死者の流出を止めるべく、青年ビュウが一計を案じる。ハロウィンといえばトリック・オア・トリートのお菓子、というわけでお菓子を撒いてみたらどうだろうか。何とか『道』を通り抜けて現在のゴドランドに戻れたビュウは、死者への対応に苦慮する仲間にその策を伝える。そして『今ではない場所』に舞い戻ると、少年ビュウと共に流出の根本的な原因を突き止め、それを止める。
 流出が収まった時、二人のビュウもまた『今ではない場所』から去る事となった。青年ビュウは少年ビュウに言う、「負けるんじゃねぇぞ」。少年ビュウは不思議に思いながら、青年ビュウの前から消える。
 全ての現象が終わった後、ビュウはかつての依頼主の老婦人を訪れる。
「俺は、貴女の依頼を完遂できましたか?」
「ええビュウさん、息子は……帰ってきてくれましたわ」


 ……長―――――――いっ!
 長いよ簾屋さん、朝礼の時の校長先生の話くらい長いよー!(ス○ードワ○ン風に)
 まあ、ともかく。
 覚えている限りのプロットを書き出しましたが、実は『今ではない場所』に来てしまったのは二人のビュウだけでなく、青年ビュウの「現在」から更に数年後の「未来」からやってきた妊婦フレデリカ(もちろんビュウの子)もいたとか、全ての黒幕は実は老婦人で、「現在」時点で老婦人がやらかした何らかの儀式が、「過去」時点にまで影響を及ぼしたとか、そんな話があったんだかなかったんだか。
 結局書かなかった話だけあってプロットはガタガタですが、こんな話が元ネタだったわけでした。モチーフは平沢進の『Siam Lights』、でも曲のイメージと話の内容は激しく乖離しています。優しいけれどどこか残酷で虚無的、というイメージを小説にしようとして結局バトルエンタメになるのが簾屋の小説です。


○十一月期作品:『脇役のススメ』

 簾屋的に一番書きづらいヘビーアーマー、その中でほとんど書いた覚えのないグンソー氏がメイン。
 実はケチンボ会計vs横領パレスアーマーの闘争は別のネタであったのだけれど、そっちが頓挫したのでこういう形でリサイクル。
 個人的に、グンソーはそこそこの男前であってくれると嬉しい、とか思いながら書いていた気がする。ついでにあのボリボリも、鎧を脱いで風呂入ってさっぱりすれば治るものだと信じたい。


○十二月期作品:『永遠を、貴女に』

 まるで『まごころを、君に』みたいなタイトルだねー……ではなくて。
 メインはナイトトリオ。ちょっとしたミスリードをやってみたくて、メイン視点をヨヨと思わせながら実はセンダックでした、的な驚きを演出――しようとしたら目一杯失敗したという何とも締まらない結果に。
 私がヨヨ様を書くと大抵腹黒プリンセスになるのですが、この話のヨヨ様は長編でお馴染みの腹黒プリンセスではありません。そして原作ゲームの、心が弱くて誰かにすがって支えてもらって、そうしてようやく立つ事が出来る、弱々しいお姫様でもありません。
『高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージ)』を体現できる、自信を持ち、どんな苦境にあっても凛と胸を張っていられる王女。なるべくして王になったクィーン。
 少なくとも、それくらいの器でなければ退役する騎士に対して「だって彼らは、私の騎士よ?」なんて言えません。
 で、一番苦労したのが騎士叙任式の資料探しというのも何だかなぁ……。


○一月期作品:『苦痛の王はかく語りき』

 やりたかったのは、オールキャラでバトルエンタメ、らしい。
 ………………………………………………おぉぅ。
 読み返して一応、これといった穴らしい穴はなかったんですが……何でしょうね、この微妙な感じは……。
 書き直したいッス、マジで。大体、オールキャラの割りにはメロディアやアナスタシアやエカテリーナの台詞がないし。パピーの伏線の回収忘れてるし。設定が壮大な割には、キングオブペインが単なる中ボスクラスにしか描写されてないし。この設定なら、いわゆる「クリア後の隠しボス」も張れるのに。バハラグにそんな要素はありませんが。
 バトルシーンの描写にすごく苦しんだ記憶のある中編。そして書いてて一番楽しかったのは、ビュウとパルの「戦友」とも言いきれない微妙な関係と、第一話の錯乱ビュウさんの台詞でした。
 何だかんだ言って、オチは割りと好きかもしれない。そしてこんなトンデモ中編を快く採用してくださったとろろ様、あなたが大好きです(告っちゃった)。

 
 そんなこんなでお送りした『12』再録、皆様お楽しみいただけましたか?
 この再掲ページでは、十二本の小説の後書きは削除してあります。ご覧になりたい方、『12』跡地までどうぞ(大した事は書いてませんが)。
 それではお付き合いいただき、ありがとうございました!

 参考文献

アンソニー・F・アヴェニ、勝貴子訳『ヨーロッパ祝祭日の謎を解く』創元社、2006
ロビン・メイ、バーグランド・薫訳・解説『シリーズ世界のお祭り7 ハロウィン』同朋舎、1989
アンドレア・ホプキンズ、松田英・都留久夫・山口恵理子訳『図説西洋騎士道大全』、東洋書林、2005

 

 

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