『出会う日』 あの時の貴方は、きっと私の事なんて特に気にも留めていなかったんでしょう。貴方は任務のために私の村にやってきた。任務で知県を倒し、私たちを救った。「やむなし」という貴方の言葉はきっとどこまでも本音で……それでも、月を背負った貴方は、無意識に恋するほどに私にとってヒーローでした。
『気付く日』 おたくの事なんかどうでも良かった。助けたのは任務で、連れ歩いたのは役人の目を欺くため。あのミミズ頭に「子供一人守れない」と思われるのも癪だった。ガキみたいに自分にそう言い聞かせてたから、俺は中々気付けなかった。おたくに支えられ、生かされていた事に。それがどれだけ幸せな事なのかも。
『幸せのために背を押そう』 俺と戴宗は同じ傷を抱えてる。他人に触れられたくない傷。俺には兄ィたちがいたけど、戴宗は一人で癒えないそれを抱えてた。でもきっと、翠蓮ならこいつの目を傷から逸らさせてくれる。「ほら、行ってこいよ戴宗!」俺は翠蓮にプロポーズできない幼馴染みの背中を叩いた。
『≠夢オチ』 最近の私は少し力が弱くなりました。自分で自分をつねっても痛くないんです。「翠蓮」振り向くとそこには戴宗さん。「おっ、おれ」折れ? 「おれ、お、おれ……」オレオ? オレオレ詐欺? 「俺と、結婚してくれ」頬を思いっきりつねりました。やっぱり痛くない。「……おかしな夢」「笑えねー!」
『嫁に○○されるとこだった』 結婚に当たって、翠蓮は孫二娘から料理を習う事にした。任務もなくて暇な俺は毒見役だ。「はい翠蓮ちゃん、豚肉を細かく切って、さっきの合わせ調味料で味つけ。よく揉み込んで」「はいっ」「で、仕上げに」と、謎の瓶を取り上げ、「この痺れ薬を一振り」俺は瓶を奪うと窓から投げ捨てた。
『お客様の個人情報は仕立て以外には使用いたしません』 花嫁衣裳の採寸の日です。やってくれるのはもちろん侯健さん。「じゃあ翠蓮さん、上着を脱いで、両腕を水平に上げてくださいっす」胸囲を測ろうと侯健さんは巻き尺を取り出し、「笑えねー。そいつのサイズを測っていいかは俺が決める。測るな!」とんでもない無茶振りに侯健さんも困ってます。
『梁山泊終焉の日』 結婚式と言っても皆で宴会をする程度。「それでは二人の新たな門出を祝して、乾杯」「ぶぁっはっは! めでたいのう!」「花和尚、座興に演武でもやろうじゃねーの!」「やー、私たちも負けてらんないのね、杜遷、宋万!」「阿!」「吽!」梁山泊始まって以来の大惨事になりました。
『運搬は姫抱っこ』 翠蓮が体調を崩したので安道全に診せた。「で、どうなのチビ医者?」「わしはもう成人じゃ」翠蓮はうつむいている。重い病気、なのか。「安心せい、慶事じゃ」「……戴宗、さん」顔を上げた翠蓮は笑っていた。「赤ちゃんが、出来ました」「……俺の子?」「他に誰の子を妊娠しろと!?」
『信』 何ヶ月も考えてきた。候補はいくつも用意していた。だが、生まれた子供の顔を見たら全部吹っ飛んだ。「つけたい名前が、出来た」「じゃあそれにしましょう」あっさりとした言葉に驚くと、翠蓮は鮮やかに微笑む。「貴方のつけたい名前が、悪い名前のはずがありません」父ちゃん、あんたの名を貰うよ。
『幸福論』 林冲が嫁と喧嘩したと愚痴っていた。それに比べて我が家は夫婦円満、俺は幸せ者だ。そうして家に帰れば、「信、母ちゃんは?」「扈三娘のおば……お姉さんと『主婦を休んでリフレッシュ休暇』だって」愕然とする俺の周りでガキどもが腹減ったとさえずっている。それでも俺は幸せだ。幸せだって。 |