小五の星の力を捏造した、でも後悔していない



 ずっと温めてきた物語でした。
 AKABOSHIが打ち切られ、戴宗と小五の関係がどんなものだったのか、作者からの「回答」が得られなくなってから、ずっと温めてきた物語でした。
 形にするのに時間がかかりました。
 文字化し、文章化するのにもっと時間がかかりました。
 やっと書いて、皆様にお披露目する事が出来ました。
 まずは、この長い物語をお読みくださった読者のあなたに、最大級の感謝を。
 お読みくださり、ありがとうございました。


 とまあシリアスモードはこのくらいにしておいて、以上、特に何の記念日でもないけれど書いてみた中編『ファントムペイン』でした。
 以前から書く書くとブログで言い続け皆様の期待をあおって、「散々あおった挙句に出来たモンがこんなトンデモ話かよ!」と言われないかどうか簾屋はビクビクしております。いえ、簾屋、これを書くの頑張りましたが。それこそ本館の連載長編並みに(本館の話はどうでもいい)。
 ですので、それなりのものがお届けできた、と自負しております。おりますが……皆さん、どうでした? 翠蓮ちゃんの影が(第五話辺りまで)薄いのは仕様ですのでそれについての苦情は基本聞きませんからね!

 まずこの物語は、2010年戴宗誕記念中編『ハッピーデイズ』、及びWebアンソロ『百八星繚乱!』提出中編『マージナル・ジャックポット』とがっつりリンクしています。どうリンクしているのか、上記に作品をお読みくださった方にはお分かりの事だと思います。
 時系列といたしましては、『マージナル・ジャックポット』で小五が戴宗さんの事を思い出して助けたいと思い、この『ファントムペイン』で再会して小五は戴宗さんを助けて戴宗さんは小五を友達と受け入れ、『ハッピーデイズ』第二話でまだぎこちないながらも友達としての関係を良好に育んでいる――まあ、こんな感じです。簾屋はこの二人に可哀相なくらいに夢見すぎです。

 私は戴宗さんにとって、友達という存在は大きいと思います。
 何故なら友達というのは、それまで「家族」という身内もしくは血縁者、もっと言ってしまえば自分自身とそう大差のない存在の囲みから社会という外に出て、そこで初めて繋がりを持つ最初の他人だからです。
 恋人は先に来ません。どんな人でも、まずは友達から作るでしょう。恋人という存在は、そういった友達という他者との関係を作る事に慣れてようやく作れる、友達以上の「他者」ではないでしょうか。
 家族でもない、恋人でもない。
 両者の中間の存在である友達の存在を認め、受け入れる事によって、戴宗さんは初めて、それまで未熟だった他者との関係構築能力を成長させる事が出来るのではないでしょうか。
 そして小五。
 描きたかったのは、彼による戴宗さんの救済でした。
 そんなご大層なものでもなかったかもしれませんが、とにかく、小五に戴宗さんの傷に踏み込んで、その上でその手を無理矢理掴むところを描きたかった。
 宋江さんを初めとする替天行道のメンバーでもなく、林冲さんや翠蓮ちゃんでもなく。
 戴宗さんが天邪鬼な寂しがり屋で、そして洪信パパを失って孤独になってしまったところをおそらく知っているだろう小五こそ、その役に相応しい、と私は思いました。
 素直で、めげなくて、十年前に行方不明になった(と思われる)幼馴染みの事をちゃんと覚えていた小五。ありがとう小五、君が笑い、走り、泣いて、そしてあの台詞を叫んでくれなければ、私はこの話を書けなかった。君は『マージナル〜』以上に活躍してくれたよ。ありがとう小五!
 そして、何をされてもめげずに近寄って、相手の心の傷も何のそので踏み込んで手を差し伸べられる(以上、色眼鏡)小五だからこそ、戴宗さんも友達として認め、受け入れる事が出来た。この話の上で、私はそう考えています。


 ネタに関するフォロー。
 その一。「戴宗と小五の生まれ故郷が高俅によって潰された」という記述について。
 何故こんなトンデモ設定になったかと言えば、作中、二人の故郷が「鄆城県の小さな村」としか記述されていないからです。
 小さな村ってどこやねん。
 石碣村やないんかい。
 似非関西弁で突っ込み考え込む事しばし、出した結論が、「そうか、連座で高キュンに潰されたんだ!」。実際、連座で罪を問われる事って結構あったみたいですしねぇ。まして洪信パパの罪状は皇帝暗殺、そりゃあ連座で村も潰されるよ。
 作中では詳細に記述しませんでしたが、二人の生まれ故郷が官軍に叩き潰された際、ほとんどの人が殺されています。阮三兄弟の父は、家族を逃がすために体を張って官軍を食い止めた――という事にしていたらしいです、脳内メモ帳を読み返すと。
 その二。小五の星とその能力について。
 小五の星が「天罪星」なのは、原典公式です。ここを変更したらいくら異聞でも水滸伝じゃない(では地獣星が翠蓮ちゃんになってしまった件は?)(簾屋的に、あれは本当に洋一が元から翠蓮ちゃんを地獣星にするつもりでやったか懐疑的なので考慮外です)。
 力を宿す武器は釣り針、能力は「水を操る」。戴宗さんと対になる能力、そんな感じで書きました。こういう能力って考えると楽しいです。
 本来的にこれは二次創作でやっていい事ではない、と私は思っているのですが、話の性質上、小五に魔星に目覚めてもらって戴宗さんを止めてもらわないといけないので、ポリシーを曲げてやってしまいました。後悔はしません。楽しかったです。
 その三。白勝は一体誰に会ったのか、第四話で晁蓋が読んでいた手紙は何なのか、第六話で戴宗さんを『流星』と呼べたのは何故なのか、劉唐に渡した手紙は何なのか、そして何故あそこで応対に出てきたのが劉唐だったのか。
 その謎は番外編で!
 と言いたいところですが、最後の謎だけ明かしておきます。
 本当は花和尚様に出てきていただきたいところだったのですが、いやほら、三巻の書き下ろしであったじゃないですか、花和尚様と林冲さんが史家村を訪ねようか、って話しているシーン。あそこのせいで第六話で花和尚様と林冲さんを出せなくなりました。史家村に行ってしまっている、という事になっています。
 本当なら、応対に出てくる人員で花和尚様こそ相応しい人物はいないのに……(いやだって、序列上では公孫勝が宋江さん以外の替天メンバーの中では一番上ですけど、モコモコ、アレじゃあないですか。そして花和尚様や林冲さんも華州行きでいないとなると、あとはもう劉唐くらいしかいねぇ。何てこった)。
 とにかく、残りの謎は番外編で。



 まあ何はともあれ、ツンデレ戴宗さんと天然(?)小五をたくさん書けて私は幸せでした。戴宗さんのツンとデレの比率は9:1くらいだと思う。
 そんなこんなで『ファントムペイン』、これにて終了でございます。ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!

 

 

 

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